クリプト訪ねて三千里 第1401話:マーケットメイクと価格操作は何が違うのか:流動性提供の仕組みと契約の型

トークンが取引所に上場しても、板は自然には埋まらない。両側に注文を置き、いつでも売買できる状態を作っているのがマーケットメイカーである。だがその仕事は「価格を支えること」と紙一重でもある。マーケットメイクの仕組み、契約のかたちが生む動機の違い、そして外から何を見れば区別できるのかを整理する。

板の上で誰が値をつけているのか

新規上場したトークンの板は、放っておけばほとんど空である。売りたい人と買いたい人が同じ瞬間に現れる保証はなく、片側に少額の注文が並ぶだけでは、わずかな売買で価格が数十パーセント動いてしまう。

マーケットメイカーは、買い注文と売り注文を同時に出し続けることで、この隙間を埋める。提供しているのは価格ではなく流動性であり、対価はスプレッド(買値と売値の差)と、取引所から支払われる手数料の割戻しである。

実務として何をしているのか

第一にスプレッドの管理がある。差が広すぎれば取引コストが上がって誰も使わず、狭すぎれば自らの利幅が消える。第二に板の厚みの調整で、各価格帯にどれだけの注文を置くかを決める。第三に在庫リスクの管理がある。買い注文ばかりが約定すればトークンが手元に積み上がり、価格が下がればその損失は自分で負う。第四に、複数の取引所に同時に注文を置き、取引所間の価格差を裁定する。

つまりマーケットメイカーは、リスクを取って両側に立つ業者である。ここまでは、株式市場でも為替市場でも同じ機能が存在する。

「価格を安定させる」には二つの意味がある

問題は、同じ言葉が二つの異なる行為を指しうることだ。

ひとつは、需給に応じて両側に注文を置いた結果として、乱高下が起きにくくなること。これはマーケットメイクの副産物である。

もうひとつは、特定の価格水準を維持すること自体を目的として、自らの注文で価格を作ること。こちらは相場操縦であり、株式でも暗号資産でも、風説の流布・偽計・相場操縦にあたる行為は法律で禁じられている。出来高を作るために自己間で売買を繰り返すウォッシュトレードも同じ領域に入る。

この二つは、板の上の見た目では区別がつきにくい。区別されるのは、目的と、それを誰がどう報酬を受け取っているかである。

契約のかたちが動機を決める

マーケットメイカーとプロジェクトの契約には、大きく三つの型がある。

リテイナー型は、月額固定で流動性提供を委託する。マーケットメイカーの収益は価格水準から独立しているため、価格に対して中立でいられる。

ローン+オプション型では、プロジェクトがトークンを貸し出し、マーケットメイカーは一定の行使価格で買い取る権利を受け取る。価格が高いほどマーケットメイカーの利益が増えるため、中立ではない。上場直後のトークンでよく使われる形だが、貸し出したトークンがいつ売られるかはプロジェクト側から見えにくい。

取引量連動型は、出来高の一定割合を報酬とする。出来高そのものが報酬の源泉になるため、実需のない取引を増やす誘因が構造的に生じる。

契約を外から確かめる手段はほとんどないが、どの型かによって何が起きやすいかは変わる。

外から何を見れば分かるか

オンチェーンと取引所データから、いくつかの手がかりは得られる。

出来高に対して、実際に取引しているアドレスやアカウントの数が極端に少なければ、少数の主体が回している可能性がある。板の厚みが買い側だけ不自然に厚い状態が続けば、価格を支える意図を疑う余地がある。複数の取引所で価格差が長く残るなら、裁定が働いていない。トークンのロック解除スケジュールと、マーケットメイカーへ貸し出された数量が開示されているかも、確認する価値がある。

いずれも決定的な証拠にはならない。ただ、これらを見ずに「取引量が伸びている」とだけ言われたときに、何を確かめるべきかは分かる。

まとめ

マーケットメイクは、市場が機能するために必要な仕事である。同時に、価格操作との境界が曖昧になりやすい場所でもある。分けているのは技術ではなく、目的と報酬の設計だ。プロジェクトを評価する側も、依頼する側も、見るべきは「価格が安定しているか」ではなく、「誰が、どういう条件で、その板に立っているか」である。

※本記事は2024年12月30日に公開したものを、2026年9月に全面的に書き直しました。

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