クリプト訪ねて三千里:第750話
ユニスワップv3のまとめ

クリプト研究機関ハッシュハブのリサーチレポートが出ております。大変わかりやすいのでぜひご覧ください。
こちらは「流動性提供範囲」の指定からレバレッジを掛ける効果があるという説明と、いいことばかりではなくインパーマネントロスがきつくなりますよという説明です。

Uniswap v3の概要 流動性提供範囲の指定によって実現する機能

 

また、以下の長文はこれまでユニスワップ v3のことを全6回でご紹介したのですが、それをすべてまとめたものになります。

Introducing Uniswap V3

 

2018年11月
自動マーケットメイカー(AMM)のPoCとしてローンチされました。誰もがマーケットメーキングできるという画期的なもので、これまでホワイトペーパーを読んで想像するだけでしたが、モノがあって手で触れることで知識→体験へと知覚レベルが飛躍しました。

※Proof of concept(PoC):新たな概念やアイデアの実現可能性を示すため簡便かつ不完全なまま実用化すること。プロトタイプへと至る前段階とされている。

2020年5月
ユニスワップv2が新機能と最適化機能を取り入れて自動マーケットメイカー(AMM)が飛躍的に成長した舞台となりました。ローンチから1年足らずで、v2は1,350億ドル以上の取引量を計上し、世界最大の現物暗号資産の取引所の1つとなりました。アメリカのDeFiブームがこの時期(もう少し先)です。

ユニスワップは現在、DeFi(分散型金融)の重要なインフラとしての役割を果たしており、開発者、トレーダー、リクイディティプロバイダーが安全で堅牢な金融市場に参加できるようになっています。

今後は、イーサリアムのレイヤー 1とレイヤー 2に順次アップデートしていくとのことです。イーサリアムは常に改善を目指しており、処理速度やトランザクションのスループットの向上によってイーサリアムをよりスケーラブルにしようと様々な努力がなされています。

レイヤー 1: ETH 2.0で取り組まれているコアプロトコルの改善です。

レイヤー 2: イーサリアムのプロトコル上に構築される技術の総称で、セキュリティ水準をキープしてスケーラビリティ改善を目指します。 サイドチェーンのようなオフチェーン技術により、メインと分けてトランザクションを処理することでスケーラビリティの改善を実現します。

【流動性の集中化】
それぞれの流動性プロバイダーが自分の資金をどの価格帯に割り当てるかをきめ細かくコントロールできるようになりました。それぞれのポジションは1つのプールに集約され、ユーザーは1つの統合された組み合わせに対して取引を行うことができます。

【複数の料金体系】
流動性プロバイダーが様々なリスクを負うことに対して適切な補償を受けることができます。

  • この「流動性の集中化」と「複数の料金体系」により、ユニスワップv3はこれまでに設計された中で最も柔軟で効率的な自動マーケットメーカーとなっています。
  • 流動性プロバイダーは、ユニスワップv2と比較して最大4000倍の資本効率で流動性を提供することができ、資本に対してより高いリターンを得ることができます。
  • 資本効率の良さは、既存の取引所やステーブルコインに特化した自動マーケットメーカーを凌駕する低いスリッページの取引執行への道を開きます。
  • 流動性プロバイダーは、好みの資産に対しエクスポージャーを大幅に増やし、ダウンサイドリスクを減らすことができます。
  • 流動性プロバイダーは、市場価格の上下のレンジで流動性を提供し、取引所機能の提供を可能にします。手数料が稼げる指値注文と同じようなもので、滑らかな収益曲線で算出されます。

ユニスワップのオラクルははるかに簡単に安価に統合できるようになりました。v3のオラクルは、過去9日以内の任意の期間の時間加重平均価格(TWAP)をオンデマンドで提供できます。統合する人は過去の値をチェックする必要がなくなりました。これらの画期的な設計上の改善を行っても、イーサリアムのメインネットにおけるv3スワップのガス費用は、v2よりもわずかですが安いです。

流動性の集中化

ユニスワップv2では、流動性はx*y=kの価格曲線に沿って均等に分配され、0から無限大の間の全ての価格で資産が確保されます。

ほとんどのプールでは、0から無限大の範囲は広いので、この流動性の大部分が使用されることはありません。例えば、v2のDAI/USDCペアでは、0.99ドルから1.01ドルの間の取引のために、わずか0.50%の資金が確保されていますが、この0.99ドルから1.01ドルの間は流動性プロバイダーにとって最も多くの取引量があり、結果的に最も多くの手数料を得ることが期待される価格帯です。

v2の流動性プロバイダーは、資本のごく一部に対してしか手数料を得られないため、両トークンの在庫を大量に保有することで負う価格リスク(インパーマネントロス)を適切に補えない可能性があります。さらに、流動性がすべての価格帯に薄く分散しているため、トレーダーはしばしば不当なスリッページを受けることになります。

ユニスワップv3では、流動性プロバイダーは最も取引が活発であろう価格帯に資本を集中させ、希望する価格でより多くの流動性を提供することができます。そうすることで、流動性プロバイダーは自分の好みを反映した個別の価格カーブを構築することができるようになります。

流動性プロバイダーは1つのプールの中で、集中化したポジションをいくつでも組み合わせることができます。

例えば、ETH/DAIプールの流動性プロバイダーは、100ドルを1,000~2,000ドルの価格帯に、さらに50ドルを1,500~1,750ドルの価格帯に配分することができます。

そうすることで、流動性プロバイダーは、自動マーケットメーカーやアクティブな板注文の形状に近づけることができます。

ユーザーは、流動性プロバイダーごとにガスコストを増加させることなく、すべての個別カーブの流動性を組み合わせて取引することが可能です。ある価格帯で集められた取引手数料は、その価格帯に貢献した流動性の量に比例して、流動性プロバイダーによって分配されます。

資本効率

流動性プロバイダーは、流動性を集中させることで、リスクにさらす資本を大幅に減らしながら、指定した価格帯でv2と同等の深い流動性を提供することができます。節約できた資本は、外部に保有したり、別の資産に投資したり、DeFiの別の場所に預けたり、指定した価格帯のエクスポージャーを増やしてより多くの取引手数料を得るために使用できます。

 

例、

アリスとボブの二人は、ユニスワップv3のETH/DAIプールで流動性を提供したいと考えています。二人はそれぞれ100万ドルを持っています。ETHの現在の価格は1,500 DAI(=1,500ドル)です。

アリスは、(ユニスワップv2の時のように)全価格帯に資金を投入することにしました。アリスは500,000 DAIと333.33 ETH(合計100万ドル相当)を預けます。

ボブは、1,000から2,250までの価格帯でのみ預け入れることで集中的なポジションを作ります。ボブは91,751 DAIと61.17 ETHを預け入れ、合計で約18.35万ドルとなりました。残りの81.65万ドルは自分で保管し、好きなように投資します。

アリスはボブの5.44倍の資金を投入していますが、ETH/DAIの価格が1,000~2,250円の範囲内であれば、同額の手数料を得ることができます。

ボブの集中化されたポジションは、流動性に対する一種のストップロスとしても機能します。ETHの価格が0ドルになった場合、アリスとボブの流動性提供の配分は二人ともすべてがETH建てになります。しかし、アリスが100万ドルを失ったのに対し、ボブは15.9万ドルを失ったに過ぎません。ボブは追加の81.65万ドルをダウンサイド・エクスポージャーのヘッジに使ったり、考えられる他の戦略に投資することができます。

 

v3の流動性プロバイダーは、少ない資本でv2の流動性プロバイダーと同等の流動性の厚みを提供することもできますが、同額の資本でv2の流動性プロバイダーよりも深い流動性を提供することも可能です。(100万ドルすべてをその価格帯に配分する)

この場合、より多くの価格リスク(インパーマネントロス)を負う一方で、より多くの取引をサポートし、さらに高い手数料を得られることになります。

より安定したプールの流動性プロバイダーは、特に狭いレンジで流動性を提供することになるでしょう。もし、現在ユニスワップv2のDAI/USDCペアに保有されている2500万ドルをv3の0.99~1.01のレンジ内に集中して預け入れた場合、価格がその範囲内にある限り、ユニスワップv2の50億ドル分と同じ流動性の厚みを提供することになります。もし、2500万ドルが0.999 – 1.001のレンジ内に集中して預け入れた場合、ユニスワップv2の500億ドル分と同じ流動性の厚みを提供することになります。

ローンチ当初は、0.10%内の価格帯で流動性を提供する流動性プロバイダーの資本効率の向上は最大で4000倍となります。v3のプール機能は、技術的には0.02%という細かなレンジにも対応可能で、v2と比較して最大2万倍の資本効率向上が期待できます。

ただし、プールの粒度を上げるとスワップするためのガスのコストが増加するため、その場合はレイヤー2での利用が有効となるでしょう。

アクティブな流動性
市場価格が流動性プロバイダーの指定した価格帯から外れた場合、その流動性プロバイダーの流動性は事実上プールから外れてしまい、手数料を得ることができなくなります。この状態では、市場価格が指定した価格帯に戻るか、流動性プロバイダーが現在の価格を考慮して価格帯を更新するまで、手数料を受け取ることができない場所で流動性提供を行っていることになります。v3では、このような手数料を稼げない価格帯で流動性提供をしてしまうことも理論的には考えられますが、合理的な流動性プロバイダーは現在の市場価格に合わせて継続的にその提示する価格帯を更新するものだと思われます。

 

レンジ注文
V3の流動性プロバイダー用カスタマイズ機能では、成り行き注文に代わる新しい注文タイプを提供しています。まるで一つのトークンを買って価格が上昇すれば利食いするような感覚です。つまり、流動性プロバイダーは一つの資産を滑らかな曲線(損益曲線)を描きながら希望の価格帯に達したときに別の資産と交換することが可能です(指値の利食い注文と同じ原理)。そして、その過程で追加の手数料を得ることができます。

つまり、狭いレンジ内での資金ロック(預け入れ)は、従来の指値注文と同じとなります。例えば、現在のDAIの価格が1.001 USDCを下回っている場合、アリスは1,000万ドル分のDAIを1.001~1.002の範囲(DAI/USDC)でロックします。価格が上昇してDAIが1.002 DAI/USDC以上で取引されると、アリスの流動性は完全にUSDCに変換されます。DAI/USDCが1.002以下で取引され始めると、再びDAIに変換されるのを避けるために、アリスは流動性を引き出す必要があります。

約定したレンジ注文の平均約定価格は、最小価格と最大価格の幾何平均です。アリスの場合、約定価格は1.001499DAI/USDCに相当し、合計1,001,499ドルとなります。なお、この約定価格には、1.001~1.002DAI/USDCの範囲内で取引される期間中に発生するスワップフィーは含まれていません。

約定したレンジ注文の平均約定価格は、最小価格と最大価格の幾何平均です。アリスの場合、約定価格は1.001499DAI/USDCに相当し、合計1,001,499ドルとなります。なお、この約定価格には、1.001~1.002DAI/USDCの範囲内で取引される期間中に発生するスワップフィーは含まれていません。

より広いレンジでのレンジ注文は、利益確定、下落したところでの買い、そしてプライマリー・イシューの場合に特に有効です。

※プライマリー・イシュー:発行者は、流動性を単一の資産に預けることができ、トークンを販売する価格の範囲を正確に指定することができます。

ノンファンジブルの流動性
流動性プロバイダーごとの個別プライスカーブの副産物として、流動性ポジションはもはやファンジブル(代替できる)ではなく、コアのプロトコル内ではもはやERC20トークンではないと言えます。

代わりに、流動性プロバイダーのポジションはファンジブルでないトークン(NFT)で表すことができます。ただし、通常でシェアされるポジションは周辺契約や他のパートナープロトコルを介してファンジブル(ERC20)にすることができます。付け加えて、取引手数料が流動性プロバイダーに代わって自動的にプールに再投資されることもなくなりました。

将来的には、より洗練された戦略がトークン化され、流動性プロバイダーがパッシブなユーザー体験を維持しながら参加できるようになると考えています。これには、マルチポジション、市場価格に集中するための自動リバランス、手数料の再投資、レンディングなどが含まれます。

フレキシブルな手数料
ユニスワップv3では、流動性プロバイダーはペアごとに0.05%、0.30%、1.00%の3つの異なる手数料群を提供します。この豊富なオプションにより、流動性プロバイダーは予想されるペアのボラティリティーに応じてマージンを調整することができます。流動性プロバイダーはETH/DAIのような相関性のないペアではより大きなリスクを負い、逆にUSDC/DAIのような相関性のあるペアでは最小限のリスクしか負いません。

別々の手数料群は、ある程度の流動性の断片化につながるかもしれませんが、ほとんどのペアは「明白な」手数料群に調整されて標準的な市場として機能すると考えています。同種の資産ペアは0.05%の手数料群に集まり、ETH/DAIのようなペアは0.30%を使用し、エキゾチック資産は1.00%のスワップ手数料がより適切であると予想しています。 ガバナンスは必要に応じて手数料群を追加することができます。

ユニスワップv2ではプロトコル手数料のスイッチが導入され、フラットな5ベーシスポイント(流動性プロバイダー手数料の16.66%)の手数料をガバナンスが決定しています。ユニスワップv3のプロトコル手数料は、はるかに柔軟性があります。手数料はデフォルトではオフになっていますが、ガバナンスによってプール毎にオンにすることができ、流動性プロバイダー手数料の10%から25%の間で設定できます。

高度なオラクル

ユニスワップv2では、時間加重平均価格(TWAP)オラクルを導入しました。これらのオラクルはDeFiのインフラとして重要な役割を果たしており、CompoundやReflexerを含む数多くのプロジェクトに組み込まれています。

V2のオラクルは、ユニスワップのペア価格の累積合計を秒単位で保存することで機能します。これらの価格の合計は、期間の初めと終わりに一度ずつチェックされ、その期間の正確な時間加重平均価格(TWAP)を計算することができます。

ユニスワップv3では、時間加重平均価格(TWAP)オラクルが大幅に改良され、1回のオンチェーンコールで過去9日以内の最新のTWAPを計算することが可能になりました。これは、1つではなく累積和の配列を格納することで実現しています。

 

この履歴価格の累積値の配列により、単純移動平均(SMA)、指数移動平均(EMA)、異常値フィルタリングなどを含む、より高度なオラクルをはるかに簡単かつ安価に作成することができます。

この大きな改善にもかかわらず、ユニスワップトレーダーがオラクルを最新の状態に保つためのガスコストは、v2と比較して最大50%削減されています。 外部のスマートコントラクトで時間加重平均価格(TWAP)を計算するためのコストも大幅に安くなっています。

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BlockRabbit『クリプト訪ねて三千里』とは。

第596話からのターン。バトンタッチを受けたcryptoトレーダーは、DeFiとは何ぞや?ユーザー目線でコツコツ嚙み砕いていくコラムを書いていきます。

~第595話まで
現在の実態経済からは少し離れたところに、もう1つの経済圏がブロックチェーンによって興ると考えるShoが、その興隆を追っていくために毎日1社ずつ界隈のプロダクトを紹介していく超短編気まぐれ日刊コラムであり、メディア記事も幾つかピックアップしてお届けしておりました。

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ABOUTこの記事をかいた人

農耕型・堅実派のアルゴリズムトレーダー。夢はヘッジファンドを自動で運用することです。簡単なプログラミングからパソコンの組み立てまで全て一人でできるバランス感覚の持ち主です。 DeFi(分散金融)をわかりやすくお伝えすべく「クリプト訪ねて三千里」に挑戦しています。