その政策がのちにリーマンショックの遠因をつくったとされるアラン・グリーンスパン元米連邦準備制度理事会議長(1987年〜2006年)。「マエストロ」と呼ばれた高名な経済人は、そのために退任後、その功罪を問われることになったのは周知の事実ですね。
とはいえ、御年91歳のグリーンスパン氏が経済について口を開けば、たちまち注目を集めるのは今も変わりません。先月の半ばには米フォックスビジネス・ニュース、今月初めにはCNBCやブルームバーグで、ビットコインをめぐる見解を示して話題になりました。
本記事では、グリーンスパン氏のこうした発言を主に二つのインタビューからチェック。続いてビットコインに懐疑的な氏とは対象的に、オンラインゲーム内で使える仮想グッズ販売のパイオニアMatt Mihaly氏が、ビットコインに見出した未来の可能性についてまとめました。
ビットコインはかつて不換通貨と呼ばれたもの
11月9日付けのFOXBusiness.comによると、グリーンスパン氏は「ビットコインとはかつて不換通貨と呼ばれたもの」であるとし、最終的には無価値となった米独立戦争時のコンチネンタル通貨との類似性を指摘。
「コンチネンタル通貨は1775年に引当て金もなく発行され、その後発行量がどんどん増えて行くまでは、額面価格で流通していた。」(アラン・グリーンスパン)
同氏は、仮想通貨の認識は必ずしも現実を一致するものではないと言う。「ビットコインのような何かを手に入れれば、実際の価値はともかく、そこにはなんらかの価値がある、と考えるのが人間のさがというもの。しかしそれは結局、コンチネンタル通貨や南北戦争中のグリーンバックス通貨と同じで、これらの通貨に共通するのは、引当て金がないことだ。」
2013年12月にビットコインの価格が1000ドルに達したときにも、ビットコインは「通貨ではない」との見解を示していた。「ビットコインは本来的価値を持っているにちがいないが、それが何なのか推測するには相当な想像力が必要だろう。私はまだできていない。ほかの誰かはできるかもしれないが」と言う。4年経った今も、基本的にビットコインは信用できないという見解は変わっていないようだ。

ギャンブルが決してなくならないのと同じ
12月6日付のcnbc.comでも、同日の時点で1万2000ドル超えを記録していたビットコインを、グリーンスパン氏は再びコンチネンタル通貨にたとえてみせ、最終的には無価値となるものでも、短期的には本物の財貨・サービスを生み出しうるとコメント。コンチネンタル通貨のおかげで、当時ジョージ・ワシントンが独立戦争のための武器や軍需品を買えたように…。
コンチネンタル通貨は法定通貨だったが、発行量がどんどん増えて市場に流通しすぎたために、需要とのバランスが崩れその価値を失った。ビットコインには発行量の上限が設定されているが、その他の仮想通貨が林立している状態ではこれも意味をなさない可能性がある。グリーンスパン氏は、「ビットコインがどの程度コンチネンタル通貨と異なるのかの判断は困難だが、少なくともかなり類似性があるのは確かだ」と語った。
結局のところ人間とは、「ありとあらゆるモノを無駄買いするものだ」という同氏の弁は、何か前述のセイラー教授言うところの人間像と重なる。グリーンスパン氏は、儲かる確率は低いにもかかわらず、カジノでギャンブルをする人たちが減ることがないのと同じだという。
グリーンスパン氏の見解に物申す?
これに対し12月8日付のMedium.comで、「Mr. Greenspan宛」に、自らの意見を展開したMatt Mihaly氏。1997年にはすでに、自身が運営するオンラインゲーム内で使える仮想グッズ(武器やアイテム)を先見的に販売していた「オンラインゲームの仮想通貨/アイテムの父」は、現在も起業家・仮想通貨投資家・ゲームデザイナー等として活躍中だ。
Mihaly氏は、グリーンスパン氏がビットコインの本来的価値を見いだすことができないと述べたことに対し、バーチャル通貨を10年も前から扱っている自らの経験を引き合いに、なぜ(大文字Bの)ビットコインが革命的な可能性を秘めているのかについて持論を展開した。
まず、ビットコインに本来的価値がないという見解については、否定できないとしたうえで、それはビットコインの行く末には関係ないとしている。たとえば不動産にも本来的価値は全く(あるいは最小限しか)ないという例を挙げつつ、それでも一般的に不動産になんの価値もないということにはならない、というのだ。それでは何が不動産を価値あるものにするのか?
すべての価値は「コンテクスト」次第
それは「コンテクスト(背景情報)」だという。かつて自動車産業で湧いたものの、衰退が激しいデトロイトの不動産と、テックブームが続くサンフランシスコの不動産では、同じような条件の不動産でもその値には雲泥の差がある。居住環境というコンテクストが不動産の価値を決めているわけだ。
これは、オンラインゲーム上のバーチャル武器が、なぜ一定の消費者にとって現金と引き換えにするほどの価値を持つのか、にもつながるその武器が存在するゲーム上の世界というコンテクストが、払い戻すことさえもできない仮想アイテムにまで価値を与えている。
この論理をビットコインに応用するとどうなるか?ビットコインはそれが流通している「支払いネットワーク」というコンテクストがあるから価値があるということになると、Mihaly氏はいう。Eメールがそれを送受信できるネットワークがあるから意味があるのと同じように、いくらビットコインを持っていても、このネットワークがなければ、コインはハードドライブに眠っているだけ、ということになり誰も気にかけない。コンテクストがないからだ。

もうひとつのキーは「価値の保管」
昔から現在に至るまで、世界のほとんどの政府が金を保管しており、米政府だけでその保有量は8000トン超にのぼる。その昔、金には価値があると人びとが同意したから金は価値あるものなのであり、これを実際に保有する価値が生まれる。
(大文字Bの)ビットコインにはこれら二つが備わっていると、Mihaly氏は
指摘する。つまり、「支払いネットワーク」と「価値を保管する方法」が…。そして100万ドルをわずか数セントで送金できてしまうのだ。ペイパルだとそうはいかない。数パーセントの手数料を取られる。それに金などと違って、事実上ビットコインの保管は無料だ。
ほとんど全く摩擦を生じさせることなく、事実上ありとあらゆる規模の価値を送(金)・保管できる。これが、かなりの価値を生み出すのに十分なコンテクストでなくて何になろう?とMihaly氏は問う。グリーンスパン氏が言うように、想像するのがそんなに難しいことだろうか、と。
(小文字bの)ビットコインは限定2100万ドルという稀少性があるから価値があるのであり、かつ(大文字Bの)ビットコインの支払いネットワークというコンテクストが、価値を生み出すためのコンテクスト内で様々な機会を提供するから価値がある、ということだ。
ビットコインに対する需要はホンモノ
Mihaly氏は言う。デジタルな超国家通貨に対する需要はホンモノだ、と。ビットコインが法定通貨に取って代わることはないだろうが、今後も共存していくことだろう、と。政府によって一方的に価値のないものにされることのない価値を保管しておきたい、祖国への仕送りなど小額の海外送金に、手数料を取られたくないという願いを持つ人びとが存在することを想像するのは、それほど難しいことではない。(とはいえ、Mihaly氏は同時に、近ごろの中国当局によるビットコイン取引所への介入で、ビットコインが値を下げたことなど、政府による影響は実際にあることも指摘しているが)
Mihaly氏が持論の中でグリーンスパン氏に言いたかったのは、ビットコインが今後も一定のレベルで存在し続ける理由がたくさんある、ということ。ビットコイン通貨はそのネットワークに価値があるから価値がある、という。
そのネットワークは人びとや企業が経験している実際の問題を解決するのに使えるものだから価値がある。それは本質的価値と呼べるものなのか?それはわからないが、とMihaly氏。でもなんらかの価値があることは確かだ—-コンテクストがそれに価値を与えている限り…。
この点においてビットコインの価値は、金、サンフランシスコの不動産、オンラインビデオゲームの仮想アイテムと根本的に何も違わないと、Mihaly氏は結んだ。

最後に
今年、「行動経済学」の研究でノーベル経済学賞を受賞した米シカゴ大のリチャード・セイラー教授によると、人間の認知能力や自制心には限界があり、経済活動をめぐっても、人間というものは合理的な計算に基づいて行動するとは限らないそうです。
天井知らずに値上がりを続けるビットコインは、自制心の欠如が引き起こした愚行として経済史に名を刻むことになってしまうのか、それとも今後落ち着きを取り戻して、持続可能なもうひとつの貨幣へとなっていくのか……それがわかるのにはまだ少し時間が必要なようです。
参照記事:12/8/2017 Medium.com
参照記事:12/6/2017 CNBC