Multicoin Capitalは、「イノベーションにはフリーダムが欠かせない」を信条に、分散型システム技術をサポートする投資会社。時として煩雑で非効率的に進むパーミッションレスなイノベーションへの投資を敬遠しがちな伝統的金融機関とは対極の姿勢で投資を行っている。ミッションはずばり、中央集権型金融機関に象徴される産業時代から、分散型金融機関に代表されるインターネット時代への移行を加速させること。同社のマネージングパートナー、ツシャール・ジャイン氏が、この分野の投資家として技術、はては業界全体の発展に貢献する方法を次のようにまとめた。
変わりつつある仮想通貨投資家の役割とは:ツシャール・ジャイン
元記事:「The Evolving Role of Crypto Investors by Tushar Jain」
投資家としてプラスアルファを捕らえる最善の方法は、自分でそれを作り出すことです。 投資会社はこれを何十年も前からやっています。TPGのようなグループは事業を買収し、それを売却する前にかなりの資源を投入して、事業を改善します。USV、a16z、Craft Venturesなどのベンチャーキャピタルは、初期段階にある企業が事業規模を拡大するための課題を克服できるよう支援することで、プラスアルファを作り出しています。
仮想通貨は、既存の資産(初期段階の株式、コモディティ、公開株式、通貨)の属性が組み合わさった、まったく新しい資産クラスです。もっとも注目すべきことに、通常スタートアップ株に投資するテック系ベンチャーキャピタルがシーンを主導している点があります。ベンチャーキャピタルは伝統的な企業育てで価値を加えることでプラスアルファを作り出しますが、このユニークな資産クラスでは、それを実現するために多種多様な方法があります。
ベンチャーキャピタルは、通常、以下の組み合わせでポートフォリオ企業に付加価値を与えます:
- 資本
- 人材募集(主にエンジニア系や重役級)他の人材紹介
- 創業者/経営者に戦略とスケーリングについてアドバイス
- 「規模の経済」の恩恵を受けるサービス(インキュベータ期の事務所スペースやPR活動など)をポートフォリオ企業に提供
- 感情的なサポート
これらのサービスは非常に大切です。ベンチャーキャピタル業界は、今にちの経済にみられる新テクノロジーやビジネスモデルの登場に大きく貢献してきました。私たちを含め、仮想通貨ファンドはこうした従来タイプのサービスも数多く提供していますが、私たちは仮想通貨に固有の方法で価値を提供することで真の差別化をはかろうと模索しています。
すべてではないにしても、クリプトネットワークが経済的な堀(競争における優位性)として機能する、強力なネットワーク効果の恩恵を仮想通貨への投資は受けるという仮定に基づいています。しかし定義上、ネットワークは十分に大きくなるまで経済的な堀として機能してくれません。 ブートストラッピングは、ネットワーク効果頼りの企業がもれなく直面する最大の課題であることは誰でも知っています。(他の誰も電話を持っていないのに、電話を買う理由があるのか?という問題です。)
クリプトネットワークを構築するチームがネットワーク効果をブートストラップする(ゼロから始める)のを支援するために、仮想通貨に特化した資金のボジションを取る方法はいくつかあります。
たとえば私たちが投資しているLivepeerをみてみましょう。Livepeerは分散型ビデオトランスコーディング・ネットワークです。ネットワークのサプライヤーは、Livepeerの顧客にビデオトランスコーディングとコンテンツ配信サービスを提供する権利のために、LPTトークンをステーキング(保有し報酬を受け取る)します。サプライヤーにはサービス提供に対し、ETHまたはステーブルコイン(DAI、GUSD、USDCなど)が支払われ、それを従来の割引キャッシュフロー型を用いて評価され得るyield-generating 資産に換えることができます。しかし、ビデオストリーマーがLivepeerネットワーク上でコンテンツを放送する前の段階から、トランスコーディングサービスの提供に興味のある人たちが、ネットワークに参加するためにLPTトークンを購入してステーキングするのは、経済的に合理的とはいえません。ネットワーク上のサプライヤーがいなければ、顧客はニーズを満たせないからです。 つまりここで、卵が先か鶏が先かという問題が起きます。
私たちは現在、Livepeerネットワーク上でトランスコーダーを動作させています。これは他のサプライヤーがLPTの魅力的な利益を実感するのに十分な需要が出るまで、Livepeerネットワークの供給サイドをサポートするためです。Livepeerネットワークのサプライヤーとして活動することで、セールス努力の分野で創業者を助け、事業に弾みをつけることができるというわけです。
私たちはこれをさらなる高みにもっていくこともできます。まず、複数の地域でトランスコーダーを作動させてネットワークをより分散化し、低コストかつより高いパフォーマンスのものにできます(Livepeerはレイテンシバウンドアプリのため、ノードがストリームのソースに近いほどサービスは向上する)。次に、初期段階においては営業損失ありきでトランスコーダーを動作させれば、創業者は潜在的な顧客に向けてより低価格で宣伝ができ、必要最低限の需要を生み出すことでネットワーク効果も強化できます。私たちの投資規模とLivepeerのポテンシャルを考えれば、ネットワークの成長を加速させるために何ができるか、が重要になってきます。
ほかの例としてMakerDAOを考えてみましょう。MakerDAOシステムにおける最大の問題は、DAIの需要供給曲線が交差しない点です。つまり、DAIの需要が増えても、CDPの作成者がDAIを増やす理由がないのです。
そこで、長期投資家が仮想通貨に特化した運用を通じてプラスアルファを生み出す機会がここにもあります。MakerDAOへの投資家は、CDPの作成でDAIを生成し、そのDAIを売却して米ドルに両替することができます。こうすることで投資家は、有機的なCDP生成者なら取るかもしれない市場リスクを取らずにDAIの供給を増やします。DAIペアの取引および市場を作る流動性プロバイダーを奨励して、DAI取引ペアに流動性を追加するのです。
MakerDAOへの投資家は、債務不履行のCDPから清算された担保に入札することで、Daiペグの維持をサポートする「キーパー」の役割を果たすこともできます。これは、資本だけでなく努力という投資を正当化するにはあまりにドル建ての裁定取引機会が小さいときに、興味を示さない第三者ならネットワーク初期段階でやりたいとはなかなか思わない、骨の折れる活動です。ここでいうネットワーク効果とは、DAIベースのアプリで利用可能なDAIが増え、DAIペグへの信頼が増す(DAIのネットワーク効果がさらに加速し、MakerDAOの価値が高まる)状態です。
もっとほかの例:ZRXの投資家は、中央集権型および分散型取引所間の流動性プールを橋渡しすることで、0xベースのリレーすべての流動性を高めることを選ぶかもしれません。Filecoinへの投資家は、ネットワークの早期立ち上げを可能にするため、ネットワークにストレージを提供するかもしれません。 さらにはFilecoinネットワーク上にファイルを格納して、他のサプライヤーにネットワークへの参加を促すことで、ネットワーク上の需要を生み出すこともできます。
これらの行動は経済的に合理的ではないかもしれません。Livepeerトランスコーダーを動作させるには、時間、IT資源、資本の投資が必要です。 ネットワークの初期段階に、Livepeerトランスコーダーを動作させることで利益は期待できません。しかし、Livepeerがビデオトランスコーディングの標準プロトコルになる確率が高めるためなら、これは合理的な長期的投資の選択といえます。
オペレーティングノード以外にも、仮想通貨の投資家なら基本的なネットワークコンセンサスの確保でサポートができます。初期段階にネットワークコンセンサスに参加することで、もっともぜい弱な時期のネットワークセキュリティを長期投資家が高められるのです。たとえば、Skaleの例を考えてみましょう。レイヤ2(L2)ネットワークが機能するために、ネットワークは大きなプールからバリデーターをサンプリングする必要があります。これにより一連の利点がありますが、バリデーターサンプルが1/3以上「ビザンチン将軍」状態である可能性も高くなります。デベロッパー(Skaleネットワークの顧客)がSkaleチェーンをインスタンス化すると、プルーフ・オブ・バリデーター(サプライヤー)が、デベロッバーのSkaleチェーンを確保するためにランダムに割り当てられます。バリデーターは、Skaleネットワークの顧客L2チェーンに、セキュリティサービスを提供する権利のため、Skaleトークンをステーキングしなければなりません。先述のLivepeerの例のように、サプライヤーにはこのサービスの提供でETHまたはステーブルコイン(DAI、USDC)が支払われ、Skaleトークンをyield generating資産に換えることができるのです。しかし、卵が先か鶏が先かの問題はここにも残っています。
私たちは最近Skaleへの投資を発表しました。2019年第1四半期にSkaleネットワークがローンチした際には、ネットワーク上でバリデーター部分を担い舞う。そうすることにより、ネットワークのセキュリティおよび効果の両方において、ブートストラップをサポートできるからです。 Skaleの顧客L2チェーンで利用可能なバリデータープールが大きければ大きいほど、Skaleプロダクトの安全性と品質も向上します。Skaleを使用するL2チェーンが多くなればなるほど、Skaleネットワークの収益は増え、新たなサプライヤーが集まってくるのです。これは、長期投資家が触媒となって大きく影響を及ぼせる、強力なネットワーク効果です。
Livepeerの例でも述べたように、Skaleネットワークにセキュリティを提供することで、最初から利益を上げようとは必ずしも考えていません。しかし、SkaleがEthereum上でL2チェーンの標準プロトコルになる確率が高めるためには、長期的な投資の合理的な結論といえます。
仮想通貨の投資家が重要な価値を加えることができるその他のエリアとして、ネットワークのガバナンスがあります。公開された仮想通貨ネットワークにおけるガバナンスは全く新しい分野です。私たちは、こうしたネットワークの成長を支援するために、時間と労力を費やすことにコミットしています。
たとえば最近、私たちの最初の従業員だったマイルズ・スナイダーがMulticoinから独立し、Aurora EOSというEOSブロックプロデューサーをローンチしました。ブロックプロデューサーは、EOSネットワークのために選出されたガバナンス役です。Aurora EOSは、ネットワークレベルのガバナンスを提供するために、コミュニティと協力して、エンゲージメントと教育にまつわるMulticoin戦略を策定しています。私のパートナー、カイルは次のようにコメントしました。「仮想通貨に特化した管理者たちには、投資、ガバナンス、積極的な参加という方法で、新生市場を安定に導く責任がある。」
私たちは、仮想通貨に特化した投資家が価値を加えられる分野に、市場の流動性やガバナンスほかを提供することにより、初期段階にある私たちのポートフォリオネットワークのサポートに全力を注いでいます。そのためには、資本、技術的能力、これらネットワークの機能に対する理解を合体させなければなりません。伝統的なベンチャーキャピタルがラウンドをフォローする資金を確保するのと同様に、通常はプロトコルに投資する仮想通貨投資家が、ネットワークをサポートするための資本を別に確保しておくことがベストプラクティスであると私たちは考えています。仮想通貨市場が発展するにつれて、ネットワークをブーストラップしたり、最終的にはGPがプラスアルファを生み出す方法として、投資家が創業者と協力する機会が今後もますます増えていくだろうと期待しています。
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