ニューヨークでもブロックチェーンパワーが象牙の塔を凌駕?

仮想通貨やICO一辺倒のイメージだったブロックチェーン文化が、いよいよ次の段階に入った感のある今日この頃。ビジネスや社会一般、私たちの暮らしに、ブロックチェーン技術をどう活かしていくのか、より現実的な路線に目が向けられるようになってきているように感じます。Blockchain + SomethingからSomething + Blockchainへ。そんなことを敏感に察知して、いち早く動き出しているのが優秀な頭脳の集まる大学です。そこで今回はここ地元ニューヨークを中心に、アメリカのアカデミック界によるブロックチェーンへのアプローチ法、そして事情をまとめてみました。

ブロックチェーン講座の元祖大学がさらなる舵きり

ニューヨーク市内にある名門私学ニューヨーク大学(NYU)の経営大学院では、2014年からすでに、デイビッド・ヤーマック教授が「ビットコインおよび仮想通貨をめぐる法とビジネス」という名の講座を開講していた。当時登録したのは、選択科目の受講生数としては少なめの8人に過ぎなかったが、今年2018年には230人にも膨れ上がり、教室も一番大きな場所に移らなければならないほど盛況だという。

同大学の法科大学院でも、今年は「デジタル通貨、ブロックチェーン、そして金融サービスの未来」という講座が開講された。通貨や銀行、リアルな経済をめぐるデジタル通貨およびブロックチェーンの新たな役割について学ぶ。講座ではニューヨークベースのデジタル資産コミュニティからゲストスピーカーも招くとNYUサイトにはあり、ブロックチェーン関係のスタートアップなどが集結するニューヨークの地の利を最大限に生かした内容のようだ。

そんな同大がブロックチェーン技術を専攻科目として全米初(全世界初とするメディアもあり)でオファーする予定だと報じられ、近ごろ話題になった。今回明らかになった計画では、講義を受講して単位を取得するにとどまらず、専攻科目として卒業後に専門の学位を修得できるというのだから、これは大学としてブロックチェーンの取り入れに本腰を入れている証拠といえるだろう。同大学のアンドリュー・ヒンクス教授は次のように述べている。

「この業界で実際に何が起こっているのかを学生が理解できる準備を整えたいと思っています。そうすれば、学生たちが法律とビジネス両方の面からブロックチェーンの意味するところを理解し、この新規市場への船出に備えることができますから。」


2018年7月25日にNYUにて開催されたEnterprise BlockChain Forumの模様。数多くの著名な技術者や専門家により討論が繰り広げられた。この他にも沢山のブロックチェーン関連のイベントが学内で催されています。

ブロックチェーン・セキュリティ業界では有名なTRAIL of BITSのDan Guidoさんの登壇模様。この時はEthrerumを如何にハックするかというかなりギークな発表内容でした。

今秋NYUは学生の人気に応え、とりあえず講座数を2倍に増やす計画だという。全米でもっともはやく関連講座を開講した前述のヤーマック教授は、そもそも自分がビットコインに興味があったこともあり始めた講座だったが、大手を含む企業が求める需要の大きさとスピードに驚いたそうだ。卒業後、就活市場に出て行く学生であれば、なおさらこうしたビジネス上の需要には敏感にならざるを得ない。ブロックチェーンは今もっともあつい就活市場なのである。特にニューヨークはマンハッタンのみならず、地下鉄で対岸のブルックリンにわたれば、たとえばConsenSys本社をはじめとするブロックチェーン系のスタートアップがあちこちに点在する環境にある。

 

アイビーリーグ校コロンビア大では学生の動きが活発


コロンビア大学を象徴するALMA MATER像。

ニューヨーク市内にもうひとつある有名な私学といえば、名門コロンビア大学。ただし、ブロックチェーン関連で数年前からオファーしていたのは、コンピューターサイエンス系の単発講座だけだった。そこでブロックチェーンへより全面的にアプローチするために立ち上げたのが、「Columbia-IBM Blockchain and Data Transparency Center」。ここでは研究や教育、企業家精神に取り組む多角的なアプローチを目指す。同センターの立ち上げに伴い、定期的な講座として、ブロックチェーンの仕組みや基本のみならず、データの透明性や倫理問題も網羅する予定だ。

後述するが、アイビーリーグ校をはじめとする有名校は、私立・公立にかかわらず、全般的にブロックチェーン関連の講座開設に積極的だ。そういう点からすると、その中心地のひとつにいるはずのコロンビア大は、タイミングとスケールにおいて、やや遅れをとっていると言わざるを得ない。が、既存学部や既存大学院内に講座を設置するのではなく、専門研究機関をいきなり開設したところに、今後の意気込みのようなものを感じる。

もう一点指摘しておきたいのは、学生主導で熱心なブロックチェーン系コミュニティ活動が展開されている点だ。たとえばブロックラビットが今年10月3日に、同大で行われたブロックチェーン関連イベントに出席した際の”AIRSWAPセミナー@Columbia大学に行ってみた!”などが好例としてあげられる。主催したのは同大の学生が立ち上げた集団、その名もずばりの「Blockchain@Colombia」。真面目にブロックチェーンを勉強し、学内のコミュニティを広げようとかなり積極的に活動中だ。学外からブロックチェーン企業や団体を招いては技術や市場での動きを学び、意見交換できるセミナーを開催している。ブロックラビットがお邪魔した日も、DEXの代表格AIRSWAPの代表を講師に招き、活発な議論が展開されていた。
AIRSWAPセミナー@Columbia大学の模様。内容は極めてベーシックな内容でしたが、学生が中心になって議論が進められていました。

 

大学主導型のシンポジウムやミートアップを連発

ニューヨーク市内の大学としてもう1校特筆しておきたいのが、ニューヨーク・インステイチュート・オブ・テクノロジー(NYIT)だ。名前からすると理系の大学のようにみえるが、実際は経営学や教育学に至るまで幅広く網羅している。同校のプロックチェーン対するアプローチは主に、シンポジウムや各種イベントの主催のようだが、こちらもニューヨークという地の利を活かして、たとえばシンポジウムのスピーカーには、ブロックチェーン系スタートアップの幹部級や、ニューヨークタイムズ紙の専門記者など、そうそうたる面々がずらりとならぶ。

ユニークなところでは「Women in Blockchain」という名のミートアップも時々開催している。ブロックチェーン界で各専門を活かしながら活躍する女性たちの交流や、より実用的なトピック(ウォレットの開設の仕方や仮想通貨の送金方法など)まで、テーマごとに集まれる女性限定イベントだ。また近時では、今年9月、City Blockchain Summit主催のニューヨーク市ブロックチェーン年次会合も同校が会場となった。

 

Coinbaseが今夏に行った包括的なアカデミック事情調査

8月末にcoinbase.comが全米675人の学生および教授への聞き取り調査を実施、並びに国内外50大学(US News & World Reportによる世界トップ50大学)のプログラムを包括的に検証した結果を公開した。それによると50大学の実に42%が仮想通貨かブロックチェーン、あるいはそのいずれかについての講座を開講しているという(全部で172クラス)。学部は多岐にわたっており、81%が当然ながら数学・科学系学部、15%が経営学や経済学、あるいは法学系の学部、4%が文化人類学や歴史学、政治学など社会科学系の学部だった。特にその傾向が目立ったのが米国の大学だ。国際的にみれば、トップ50にランクインした米国以外の18校のうち、関連講座を開設していたのはわずか5校にとどまっている。

もっとも開設講座数が多いのは、カリフォルニア州のシリコンバレーにも近いスタンフォード大の10講座。それに東海岸のアイビーリーグ校であるコーネル大(9講座)、ペンシルベニア大(6講座)、(国外の)シンガポール国立大(5講座)、これまたシリコンバレーに近いカリフォルニア大バークレー校(4講座)、カリフォルニア大ロサンゼルス校(3講座)と続く。ハーバード大、プリンストン、ニューヨーク大は同列7位の2講座だった。もっとも前述したように、ニューヨーク大は今秋から講座数を倍に増やすとしていたので、そうするともっと順位が上がってくることになる。

現在は理系学部での開講が圧倒的だが、今後ブロックチェーン関連講座を受けたいとする学生は、社会科学系の生徒にもっとも多く、47%がイエスと答えている。これはたとえばコンピューターサイエンス系の34%をかなり上回っているが、そもそも社会科学系のブロックチェーン講座がまだまだ一般的でないことも背景にあるだろう。

また、スタンフォード大でも、コロンビア大同様に専門リサーチ機関「Center for Blockchain Research」を今年の夏に立ち上げた。各学部の教授と学生が様々な視点で多角的に仮想通貨やブロックチェーンについて研究するための拠点となるのだという。このように、アカデミック界のブロックチェーンに対する積極姿勢を端的に表すコメントを同大の博士課程にいる学生が次のように述べた。「あなたが今、もし仮想通貨や暗号化のエキスパートだとしたら、仕事を見つけられないのが非常に難しいでしょうね。」


ブロックチェーン技術も仮想通貨経済もどこにもいかない。米国の高度な教育の最先端にいる研究者や学生はひしひしとそれを実感し、日々適応し続けているようだ。

ブロックラビットのテレグラムチャンネルは最新情報をお知らせしています。
ブロックラビットのテレグラムチャンネル

Tags:

Comments are closed