エストニアの首都タリンで開かれた「Latitude59」に参加していたCoinlistのJoshua Slaytonさんにお話を伺うことができました。エストニアについては、北欧の国エストニア発!電子政府のススメ 〜先駆者ラウル・アリキヴィさんに聞く〜の記事をご参照ください。
コインリストは、アメリカに拠点を置く企業向けの仮想通貨販売・交換業者です。ブロックチェーン技術を使ったプロジェクトの開発にICOが不可欠なのは言うまでもありませんが、その資金調達を巡って、厳しさを見せる米証券取引委員会とのせめぎ合いが続く現在、素晴らしい関係性を築き上げながら進めている企業のひとつとしてコインリストがあげられるのではないでしょうか。
今回、幸運にもCTOのジョッシュさんにインタビューできましたので、ご紹介します。
コインリストとは
コインリストは、アメリカの拠点を置くAngellistというサンフランシスコ発のベンチャーと投資家とをつなぐプラットフォームを提供する会社からスピンオフした会社です。規制遵守に重点をおき、トークンの金融サービス向けプラットフォームを提供しています。 コインリストは、「コンプライアンスは我々に、あなたはトークンセールに集中できます」とうたう「ComplyAPI」サービスを提供しています。このサービスは、アンチマネーローダリング(AML)と顧客確認(KYC)を行い、米証券法に従って、適格と認められた投資家だけがトークンセールに参加できるものです。
CoinListはこれまでの最大のイニシャルコインオファリング(ICO)であるFilecoinを含め、3億ドル相当の資金調達を達成しました。 アメリカでICOを行うには、米証券取引委員会(SEC)の適格投資家適用除外に登録する、もしくは証券の売り出しとしてICOを登録する必要があります。SECはICOについて「無登録証券販売」とし、アメリカ全土で厳しく取り締まっており、マサチューセッツではアクロス・プラットフォームを含む5社のICOに営業停止命令が下りました。
コインリストが資金調達できたのは、コンプライアンスがしっかりとしたトークンセールへのニーズが高まっていることの表れだと見られています。
コインリストが派生した、エンジェルリストとは
Angellistとは、2011年にナヴァル・ラヴィカント氏が立ち上げたベンチャーに投資する個人投資家(エンジェル)と、ベンチャー企業家をつなぐプラットフォームです。 個人投資家がスタートアップ企業に投資した実績を公開し、投資してもらいたい企業が株主情報を実名で公開するサービスで、投資家を求める企業のページと、投資先を求める個人投資家のページに分かれています。
投資家のページでは例えば、「Linkedln」の創業者で個人投資家としても著名なリード・ホフマン氏が過去にどのスタートアップに投資したかや、これからも年間どの程度の投資を行う予定か、関心のあるジャンルなどがわかるようになっています。
企業のページでは例えば、「AirBnB」をみてみると、どの個人投資家がいつ、いくら投資をしているかが一目でわかる上、その投資家たちが他にどの企業に投資しているのかという「出資実績」が確認できるようになっています。
創始者のナヴァル氏も2010年成長段階であった「Uber」他に個人的な投資をしてきました。それらの経験からICO向けのマネージメンントサービスの提供を行うコインリストをスピンオフしました。
またエンジェルリストは、採用サービスを行っています。求職者がアカウントを作成すると、関連のある企業や求人情報が表示される仕組みになっており、応募も可能です。他にも企業が登録者に対してスカウトメールを送るサービスも予定されています。 全方位型ビジネスパーソン向けのSNSは実質的に「LinkedIn」独占になっている感がありますが、エンジェルリストのように、限られた職種の求人に対して有効であることは疑いようもありません。 他にも購買数6万人を超えるVenture Hacksというブログメディアも運営しています。
ジョッシュ・スライトンさん
Joshua Slaytonさんは、コインリストの共同創業者の一人です。
またエンジェルリストの2010年から2017年までのFOUNDING CTOという重要な役割を担ってきました。
旅行をこよなく愛し、世界中の会議やイベントで登壇しています。
インタビュー「法を遵守したICOと分散型の未来」
Latitude59のPRESSのアンナさんとの何度かのアポ取りの末、5/25(金)の全プログラムが終了したタイミングでようやくJoshua Slaytonさんにインタビューを行うことができました。
インタビュアーTomo 以降トモ)早速ですが、それではジョシュさんのことやコインリストやその始まりとなったエンジェルリストについて教えていただいてよろしいでしょうか。
ジョッシュ)もちろんです。私は2010年にエンジェルリストに入社して、8年かけて資金調達のプラットフォームをオンラインで作りました。多分2012年だったと思いますが、エンジェルリストと多額のビットコインを使って、ブロックチェーン企業に投資をしました。プロトコルラボがとてもいい例で、彼らはICOをしたいということだったので、一緒に資金調達と広告をおこない、2,500万ドルが集まったんです。本当にビッグビジネスチャンスでした。それからいくつか仕事をして、今に至っています。
トモ)なるほど。 ところで私たちは今、 DEX(分散型交換)に注目しています。DEXはこれからもっと広まると思いますか?
ジョッシュ)コインリストはどちらかといえば中央集権的な取引所です。特にアメリカの規制に則ったブロックチェーンの上や外で交換をしています。 私個人的にはDEXに興味はあります。でも法的な問題が遵守されているのかを注意深く確認する必要がありますよね。
トモ)コインリストはとてもSECといいバランスで業務を行っていますよね。5/24(木)の最後に行われたTMX GroupのJohn Leeさんとのディスカッション(このインタビューの前日に”ICO’s and the token economy: Transformation of capital”という議題でディスカッションが行われました。カナダの代表的な金融・投資会社のJohnさんと米国を代表する仮想通貨取引所のコインリストのジョンさんという相対的な二人の今を象徴するようなセッションでした)はとても興味深いものでした。
ICO’s and the token economy: Transformation of capital のディスカッションの様子、右がコインリストのJoshさん、真ん中は孫泰三さんが関わられていることで有名なFunderBeamのKaidiさん、左がJohnさん
ジョッシュ)そうですね、 色々な問題がありますが、それはをテクノロジー関係ではありません。コンプライアンス遵守と法的に資金調達をどう実行するかが問題なのです。アメリカでは少なくとも、法律や規制に従って動かざるを得ません。最終的にこうやって対峙している問題はいい結果に繋がると思っています。
トモ)エクスチェンジを取り巻く環境は、今年や来年末にはどのように変わると思いますか?
ジョッシュ)それは難しい質問ですね。 2012年頃から仮想通貨をどう言えばいいのか、数ヶ月前からICOがどうなって行くのか読むのは非常に難しいとおもっております。ICOのプロジェクトの多くは、技術的にまだ開発途中ですし、実際にトークンを使っているプロジェクトに今後は注目していきたいです。
トモ)なるほど、難しい質問でした。今回のエストニアのイベントはどうでしたか?
ジョッシュ)エストニアに来るのは2回目ですが、ここはシリコンバレーを除くと最善のスタートアップシーンだと思います。さすがskypeを生んだ国ですね。素晴らしい話がたくさん聞けました。みんなとても真面目に取り組んでいて、良い投資家もいて、本当にクールでした。小さな国でこんなに活気あるシーンが生まれているとは誰も知らないんじゃないかな。
ジョッシュさんは日本にも以前には何度も来られたそうですが、ここ数年は行けてないとのこと。 是非今年にでも日本のカンファレンスに来て日本を堪能していいただけるようお願いをして話を終えました。
規制遵守型のICOが一般的になる日も遠くないのかもしれません。