日本のステーブルコインは発行スキームによって送金上限、裏付け資産、償還、利用用途が異なります。資金移動業型と信託型を中心に、制度と信用構造の違いを整理します。
日本ではステーブルコインの発行スキームが重要になる
日本で法定通貨連動型ステーブルコインを分析するとき、単に「1円と連動するトークン」と考えるだけでは不十分です。誰が発行し、どの制度に基づいて裏付け資産を管理し、利用者がどのように償還できるかによって、経済的な構造が変わるためです。
日本の資金決済法では一定の法定通貨連動型ステーブルコインを「電子決済手段」と位置付けています。発行スキームとして資金移動業者によるものや信託を利用するものなどがあり、流通を仲介する事業者には電子決済手段等取引業の登録が必要になります。
資金移動業型は決済・送金との親和性が高い
資金移動業型では、登録を受けた資金移動業者が電子決済手段を発行します。JPYC株式会社は2025年8月に資金移動業者として登録され、円と1対1で連動する電子決済手段を発行できる体制を整えました。
この方式は既存の資金移動サービスの延長線上で設計しやすく、個人間送金、店舗決済、Web3サービスへの組み込みなどとの親和性があります。
一方、資金移動業には制度上の区分や送金額などに関するルールがあります。そのため大口法人決済や金融市場の決済資産として利用する場合には、どの登録区分で発行されているかを確認する必要があります。
信託型では裏付け資産を信託財産として管理する
信託型では、信託銀行や信託会社などが発行主体となり、ステーブルコインの裏付けとなる資産を信託財産として管理します。
2026年6月にはSBI新生信託銀行が発行者となる円建てステーブルコインJPYSCの提供が開始されました。JPYSCは第3号電子決済手段に該当する信託型で、先行提供ではSBI VCトレードの口座内で利用され、将来的なパブリックチェーン上での流通も想定されています。
信託型の特徴の一つは、大口資金を扱う法人利用との親和性です。JPYSCでは資金移動業型とは異なり、滞留や送金について100万円の制限を受けないことが示されています。
銀行が関与していても同じ仕組みとは限らない
「銀行系ステーブルコイン」という呼び方には注意が必要です。銀行グループがプロジェクトを主導していても、法的な発行主体やスキームがすべて同じとは限りません。
例えば信託銀行が発行する場合には信託型の構造となります。一方、銀行や銀行グループが関与する別のスキームでは、発行主体、裏付け資産の管理方法、流通を担当する事業者が異なる可能性があります。
したがって、ブランド名や企業グループだけを見るのではなく、「発行者」「裏付け資産の管理主体」「流通事業者」「償還主体」を分けて確認することが重要です。
信用リスクはトークンではなく構造から考える
ステーブルコインの信用リスクを評価するときは、ブロックチェーン上のトークンだけを見ても十分ではありません。
確認すべきなのは、裏付け資産が何で構成されているか、利用者資産がどのように保全されているか、発行体に問題が発生した場合に資産がどのように扱われるか、そして額面での償還経路が確保されているかです。
さらにパブリックチェーン上で流通する場合には、スマートコントラクト、ウォレット、電子決済手段等取引業者など新たなレイヤーも加わります。発行体の信用リスクとオンチェーンインフラの技術リスクは分離して評価する必要があります。
用途によって適した発行スキームも変わる
個人の少額決済、企業間の大口送金、証券決済、DeFiでの担保利用では求められる条件が異なります。
少額決済ではウォレットUXや加盟店ネットワークが重要ですが、法人決済では送金上限、資金保全、会計処理、内部統制がより重要になります。さらにオンチェーン金融市場では、DEXやレンディングへの接続性、流動性、スマートコントラクトとの相互運用性も必要です。
そのため、日本のステーブルコイン市場は一つの方式に集約されるというより、用途に応じて複数の発行・流通モデルが併存する可能性があります。
まとめ
日本のステーブルコインを理解するには、銘柄名だけでなく発行スキームを見る必要があります。
資金移動業型は決済や送金との親和性があり、信託型は信託財産による裏付け資産管理や大口利用に特徴があります。また、銀行グループが関与している場合でも、実際の発行主体や資産管理構造は個別に確認する必要があります。
今後、円建てステーブルコインが決済、企業財務、証券、DeFiへ広がるほど、「誰が発行しているか」だけでなく、「誰が裏付け資産を管理し、誰が償還義務を負い、どの事業者が流通を担うのか」という構造分析が重要になります。







