ステーブルコインの利回りは、発行体の準備資産運用、取引所の報酬、DeFiレンディングなど複数の経路から生まれます。金利の源泉とリスク、ユーザー還元までの構造を整理します。
ステーブルコインの利回りが注目される理由
ステーブルコイン市場では、単に価格を1ドルなどに維持する仕組みだけでなく、「その裏側にある資産から生まれる収益を誰が受け取るのか」が重要な論点になっています。
法定通貨担保型ステーブルコインでは、ユーザーが預けた資金に相当する準備資産として、現金や短期国債などが保有されます。金利環境によっては、これらの準備資産から利息収入が発生します。
しかし、その収益が自動的にステーブルコイン保有者へ支払われるわけではありません。ここを理解するには、発行体収益とユーザー利回りを分けて考える必要があります。
準備資産から生まれる収益
法定通貨担保型ステーブルコインでは、発行残高と対応する準備資産が管理されます。準備資産が短期米国債などで運用されている場合、その利息が発行体の収益源になります。
例えばCircleはUSDCの準備資産から大きな利息収入を得ていますが、金利低下局面では準備資産利回りも低下します。2026年第2四半期にはUSDC準備資産の平均利回りが3.5%まで低下したと報じられました。([Reuters][1])
つまり発行体の収益構造は、ステーブルコインの流通量だけでなく、短期金利にも大きく依存しています。
概念的には、
発行体の準備資産収益 ≒ ステーブルコイン発行残高 × 準備資産利回り
と考えることができます。
発行体収益とユーザー利回りは別物
重要なのは、準備資産から3%の利息が発生しているからといって、ユーザーが3%を受け取るわけではないことです。
発行体が得た収益は、運営費、カストディ費用、販売・流通パートナーへの支払いなどに利用されます。そのため「ステーブルコイン自体の収益」と「ユーザーが受け取る利回り」は異なるレイヤーに存在します。
この区別は規制上も重要です。米国では決済用ステーブルコイン発行体による保有者への利息・利回り支払いを制限する制度設計が進んでおり、取引所など第三者が提供する報酬との線引きも議論されています。([Federal Register][2])
ユーザーの利回りはどこから来るのか
ユーザーがUSDCなどを保有して得る利回りには、大きく異なる複数の経路があります。
第一は、取引所やウォレット事業者が提供する保有報酬です。これは発行体から受け取る経済的インセンティブや事業者自身のマーケティング費用などが原資となる場合があります。
第二はDeFiレンディングです。AaveなどではUSDCを貸し出すことで借り手から支払われる金利を受け取ります。この金利は準備資産利回りではなく、オンチェーン上の資金需要によって決まります。
第三は流動性供給や運用戦略です。DEXのLP、デルタニュートラル戦略、RWA運用などでは、取引手数料、Funding Rate、国債利回りなど異なる収益源が組み合わされます。
APYを見る前に収益源を確認する
ステーブルコイン運用を分析するとき、表示されているAPYだけを比較するのは十分ではありません。
重要なのは「誰が、どの市場で、どのリスクを取ることで利回りを生み出しているのか」を確認することです。
短期国債であれば金利リスクやカストディ構造、DeFiレンディングであればスマートコントラクトや利用率、LPであればインパーマネントロス、デルタニュートラル戦略であればFunding Rateやベーシス変動が収益に影響します。
同じ5%のAPYでも、収益を生み出す構造が異なればリスク特性も大きく異なります。
まとめ
ステーブルコインの利回りを理解するうえでは、発行体の準備資産収益とユーザーが受け取る利回りを分離して考える必要があります。
準備資産から生まれる国債利息、取引所などの保有報酬、DeFiレンディングの借入金利、DEXの取引手数料など、利回りの源泉はそれぞれ異なります。
そのためAPYの高さだけではなく、収益源、資金の流れ、仲介者、スマートコントラクト、流動性リスクを確認することが重要です。ステーブルコインの分析では「何%もらえるか」よりも「その利回りを誰が、どのように生み出しているか」を把握することが、構造的なリスク評価につながります。







