クリプト訪ねて三千里 第1517話:信託型ステーブルコインとは何か:資金移動業型との違いと日本の制度設計

信託型ステーブルコインの仕組みを解説。資金移動業型との違いを、発行主体、裏付け資産、送金上限、利用場面から比較し、日本の電子決済手段制度と円建てデジタルマネーの可能性を整理します。

円建てステーブルコインの選択肢が広がる背景

日本では、法定通貨の価値と連動するステーブルコインが資金決済法上の「電子決済手段」として位置付けられています。これまで円建てステーブルコインでは資金移動業型が先行してきましたが、2026年には信託銀行が発行主体となる信託型のJPYSCが提供され、発行スキームの違いが注目されるようになりました。

両者は、いずれも日本円との1対1の価値連動を目指すデジタル資産です。しかし、発行主体、裏付け資産の管理方法、送金上限、想定される用途には明確な違いがあります。

信託型ステーブルコインとは何か

信託型ステーブルコインとは、利用者から受け入れた資金を信託財産として分別管理し、その受益権をブロックチェーン上のトークンとして表現する仕組みです。

日本の制度上は、一定の要件を満たす特定信託受益権が3号電子決済手段に該当します。発行の裏側では、信託銀行などが資産を管理し、利用者が保有するトークンと裏付けとなる日本円資産を対応させます。

信託財産は受託者自身の財産とは区分されるため、発行・管理主体の信用リスクを分離しやすい点が特徴です。ただし、安全性は信託契約、裏付け資産の内容、償還手続き、流通事業者の管理体制にも左右されます。

資金移動業型との違い

資金移動業型は、登録を受けた資金移動業者が利用者から資金を受け入れ、同額相当のステーブルコインを発行する仕組みです。代表例として円建てのJPYCが挙げられます。

信託型との主な違いは、法的な発行スキームと資金管理方法です。資金移動業型では、発行者が資金決済法に基づいて利用者資金を保全します。一方、信託型では、信託財産として裏付け資産を管理し、その受益権をトークン化します。

また、資金移動業型には業務区分に応じた送金上限があり、第二種資金移動業では1件当たり100万円以下の送金を取り扱います。信託型はこの資金移動業上の100万円制限を受けないため、企業間決済や大口資金移動への活用が想定されています。

発行と流通を分けて考える

ステーブルコインでは、発行者と利用者へ流通させる事業者が同一とは限りません。

信託型では信託銀行が発行者となり、電子決済手段等取引業者が売買、交換、移転管理などを担う構成が考えられます。JPYSCではSBI新生信託銀行が発行し、SBI VCトレードが流通を担います。

この役割分担により、信託財産の管理と顧客対応をそれぞれ専門性のある事業者が担当できます。一方、利用者は発行者だけでなく、取扱事業者の登録状況、ウォレット対応、償還方法、手数料も確認する必要があります。

想定されるユースケース

資金移動業型は、個人間送金、小口決済、Web3サービス内の支払いなど、比較的小規模で反復的な取引と相性があります。

信託型は送金額の面で柔軟性があるため、法人間決済、トークン化証券やRWAの決済、グループ企業間の資金移動、クロスボーダー取引などでの利用が想定されます。

特にオンチェーンで有価証券や不動産関連資産を受け渡す場合、資産の移転と資金決済を同一基盤上で連動させるDvPの構築に、円建てステーブルコインを利用できる可能性があります。

銀行預金とは異なる

信託型ステーブルコインは銀行が関与していても、通常の銀行預金と同一ではありません。預金保険の対象か、保有者がどのような償還請求権を持つか、利息が付くかといった条件は商品設計によって異なります。

また、ブロックチェーン上で移転できることから、秘密鍵の管理、スマートコントラクトの不具合、対応ネットワークの停止、誤送付など、預金にはない技術的リスクも存在します。

普及を左右する要素

制度上発行できることと、決済手段として定着することは別問題です。実際の普及には、取扱事業者、対応ウォレット、流動性、償還の容易さ、会計・税務処理、既存の銀行システムとの接続が重要になります。

複数の円建てステーブルコインが発行される場合、相互交換性が不足すると流動性が分散する可能性もあります。発行残高だけでなく、送金回数、決済利用、償還実績、対応サービスの広がりを見る必要があります。

まとめ

信託型ステーブルコインは、裏付け資産を信託財産として分別管理し、その受益権をトークン化する電子決済手段です。資金移動業型とは、発行主体、資産保全の方法、送金上限、想定用途が異なります。

小口決済では資金移動業型、大口の法人決済やトークン化資産の決済では信託型というように、用途に応じた棲み分けが進む可能性があります。ただし、評価する際は発行スキームだけでなく、償還条件、流通事業者、技術基盤、実際の流動性まで確認することが重要です。

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