Entity Adjusted Metricsの仕組みと、Active Addressesだけでは実際のネットワーク利用状況を正しく把握できない理由を解説します。アドレスクラスタリングやETF・カストディの影響を踏まえ、オンチェーン分析を実務的に読み解く方法を整理します。
Active Addressesだけでは需要を測れなくなった背景
オンチェーン分析では、Active Addresses(アクティブアドレス数)はネットワーク利用状況を測る代表的な指標として広く利用されています。しかし、近年はこの数値だけで実際の利用者数や需要を判断することが難しくなっています。
背景には、暗号資産ETFの普及、カストディサービスの拡大、取引所の内部管理方法の変化などがあります。1人の利用者が数百から数千のアドレスを保有することも珍しくなく、一方で数万人分の資産が1つのカストディウォレットに集約されるケースもあります。
このような市場構造の変化を受け、多くのオンチェーン分析会社ではEntity Adjusted Metrics(エンティティ調整済み指標)を提供しています。
Entity Adjusted Metricsとは何か
Entity Adjusted Metricsとは、複数のアドレスを同一の利用者や組織(Entity)として推定・集約し、実際の利用主体に近い形でオンチェーンデータを分析する手法です。
ブロックチェーン上で確認できるのはアドレスであり、人や企業ではありません。そのため、そのままアドレス数を数えるだけでは実態とかけ離れる場合があります。
Entity Adjusted Metricsでは、複数のアドレスが同一主体に属している可能性を推定し、ネットワーク利用状況をより現実に近い形で可視化します。
なぜエンティティ調整が必要なのか
例えば、大手暗号資産取引所では入出金管理やセキュリティ上の理由から、多数のウォレットを利用しています。
利用者が1回入金するだけでも複数のアドレスが生成される場合があり、そのまま集計すると利用者数以上にActive Addressesが増加します。
逆にETFや機関投資家向けカストディでは、多数の投資家の資産が1つまたは少数のウォレットに保管されるため、実際の利用者数に比べてActive Addressesは少なく見える傾向があります。
このような偏りを補正する目的でEntity Adjusted Metricsが利用されています。
Address Clusteringの仕組み
Entity Adjusted Metricsの基盤となる技術がAddress Clustering(アドレスクラスタリング)です。
代表的な推定方法には以下があります。
- Common Input Ownership(複数入力ヒューリスティック)
- Change Addressの推定
- ウォレットの利用パターン分析
- 取引所既知アドレスとの照合
- オンチェーン行動の統計分析
これらを組み合わせることで、複数のアドレスを一つのEntityとして推定します。
ただし、完全に正確な判定ではなく、あくまで統計的な推定である点には注意が必要です。
Active Addressesとの違い
Active Addressesは「動いたアドレス数」を示します。
一方、Entity Adjusted Active Addressesは「推定される利用主体数」に近い値を示します。
例えば、1人の利用者が10個のウォレットを利用した場合、通常のActive Addressesでは10として集計される可能性がありますが、Entity Adjustedでは1として扱われる場合があります。
そのため、市場参加者の増減やネットワーク利用状況を分析する際には、Entity Adjusted指標の方がノイズを除去しやすいという特徴があります。
どのような場面で役立つのか
Entity Adjusted Metricsは次のような分析で有効です。
- ネットワーク利用者数の推定
- 長期的な普及状況の分析
- 取引所の影響を除いた利用状況の比較
- ETFやカストディ拡大後の需要分析
特に市場構造が変化している局面では、通常のアドレス数だけを見るよりも実態に近い分析が可能になります。
注意点
Entity Adjusted Metricsは便利な指標ですが、万能ではありません。
クラスタリングは公開情報と統計的手法を用いた推定であり、利用者本人が所有するウォレット構成を完全に把握できるわけではありません。
また、プライバシー重視のウォレット、CoinJoin、ミキシングサービス、Layer2ネットワークなどでは推定精度が低下する場合があります。
分析会社ごとに採用するアルゴリズムや判定基準も異なるため、同じ期間でも数値が一致しないケースがあります。
そのため、単一のデータだけではなく、Active Addresses、Transaction Count、Exchange Reserve、Entity Adjusted Metricsなど複数の指標を組み合わせて総合的に判断することが重要です。
他のオンチェーン指標との組み合わせ
Entity Adjusted Metricsは以下の指標と組み合わせることで、より精度の高い分析が可能になります。
- Active Addresses
- Transaction Count
- Exchange Reserve
- Exchange Netflow
- Long-Term Holder Supply
- Realized Cap
それぞれ異なる側面からネットワークを評価するため、複数のデータを組み合わせることで一つの指標では見えない市場構造を把握しやすくなります。
まとめ
Entity Adjusted Metricsは、アドレス単位ではなく利用主体単位でオンチェーンデータを分析するための手法です。
ETFやカストディサービスの普及、取引所内部管理の高度化により、単純なActive Addressesだけでは実際の需要を把握しづらくなっています。
Address Clusteringなどの推定技術を利用したEntity Adjusted Metricsを活用することで、ネットワーク利用状況をより実態に近い形で評価できます。ただし、推定には限界があるため、他のオンチェーン指標と組み合わせながら市場全体を多面的に分析することが重要です。







