Compoundが機関投資家向けオンチェーンクレジットへ軸足を移しています。Institutional DeFiに必要な信用、RWA、コンプライアンス、流動性設計を整理し、DeFiレンディングの競争軸を解説します。
DeFiレンディングが機関投資家へ向かう背景
DeFiレンディングでは、暗号資産を担保に誰でも借りられるPermissionlessな市場が中心でした。しかし市場が成熟するにつれ、銀行、資産運用会社、企業などの資金をオンチェーンへ取り込むInstitutional DeFiが新たな競争軸になっています。
2026年8月17日、Compoundは新経営体制と5,200万ドル規模の開発プログラムを発表し、機関投資家向け信用市場、RWA、パートナー連携を重点領域に掲げました。CompoundのTVLは2021年のピーク約120億ドルから約12億ドルまで縮小しており、今回の方針転換は単なる機能追加ではなく、レンディング市場の顧客構造そのものを変える試みといえます。
Institutional DeFiとは何か
Institutional DeFiは、スマートコントラクトによる決済、透明性、24時間稼働、プログラマビリティといったDeFiの特徴を維持しながら、機関投資家が必要とする運用条件を組み込む考え方です。
機関投資家の場合、ウォレットを接続して高いAPYを選ぶだけでは運用できません。取引相手の確認、資産保全、権限管理、監査、会計、流動性、法規制など複数の要件を満たす必要があります。
そのためInstitutional DeFiでは、プロトコル単体の利回りよりも、既存金融インフラとオンチェーン市場をどのように接続するかが重要になります。
過剰担保モデルだけでは市場を拡大しにくい
従来のDeFiレンディングでは、ETHなどを100ドル以上預けて、それより少ないUSDCを借りる過剰担保型が一般的です。この方式は借り手の信用情報を必要とせず、スマートコントラクトによる自動清算で信用リスクを管理できます。
一方、企業金融では「資産を150預けて100借りる」だけでは資本効率が低く、従来の銀行融資を置き換える理由が限定されます。
Institutional DeFiが本格的なクレジット市場へ進むには、オンチェーン担保だけでなく、企業信用、契約上の債権、国債などのRWAを利用した信用設計が必要になります。
ここでは価格Oracleだけでなく、借り手の信用評価やデフォルト時の回収プロセスもリスク管理の対象になります。
RWAは担保資産と利回りの範囲を広げる
RWA(Real World Assets)は、国債、債券、ファンド持分、売掛債権など現実世界の資産をオンチェーン上で扱う仕組みです。
Compoundも今回の機関投資家戦略でRWAのネイティブ統合を重点領域として示しています。
RWAを利用すれば、暗号資産価格だけに依存しない担保や利回りをDeFiへ取り込めます。一方で、資産の保管主体、法的所有権、償還、価格評価などオフチェーンの信用構造が加わります。
つまりRWAを組み込んだDeFiでは、スマートコントラクトリスクだけを分析しても不十分です。
Permissionlessとコンプライアンスはどう共存するのか
Institutional DeFiの難しい論点が、Permissionlessな市場とKYC・AMLなどのコンプライアンス要件の両立です。
一つの方法は、基盤となるプロトコルを公開したまま、機関投資家向け市場だけ参加条件を設定する構造です。また、認証済みウォレットや許可型プールを利用し、取引主体を限定する方法もあります。
この場合、完全なPermissionless DeFiではありませんが、決済や担保管理をオンチェーン化するメリットは維持できます。
今後は「分散化されているか」という二択ではなく、どのレイヤーがPermissionlessで、どのレイヤーに参加制限があるのかを分解して評価する必要があります。
機関投資家が重視するのはAPYより市場の深さ
大口資金では、表示APYだけでなくMarket Capacityが重要です。
例えば10%の利回りが表示されていても、数百万ドルを投入しただけで利用率が変化し、APYが大幅に低下する市場では機関投資家の運用先になりにくくなります。
必要なのは大口の預入・借入でも金利が急変しにくい流動性、低いSlippage、安定したOracle、十分な清算能力です。
したがってInstitutional DeFiの競争力はTVLだけではなく、実際にどれだけの資金を価格や金利を大きく動かさず執行できるかで評価する必要があります。
まとめ
Institutional DeFiは、従来金融を単純にブロックチェーンへ移すものではありません。DeFiの自動決済、透明性、プログラマビリティを維持しながら、信用、RWA、コンプライアンス、資産保全、監査など機関投資家向けの要件を追加する市場設計です。
Compoundの機関投資家シフトが示しているのは、DeFiレンディングの競争軸が高いAPYやTVLだけではなくなりつつあることです。
今後は、資本効率、Market Capacity、信用リスク管理、RWAとの接続、法的な執行可能性まで含めてオンチェーンクレジットを設計できるかが重要になります。Institutional DeFiを評価する際には、どれだけ大きな資金を安全かつ継続的にオンチェーンへ取り込める構造になっているかを見る必要があります。








コメントを残す