CBDC、ブロックチェーンをめぐるセンセーション

ブロックラビット

Original Article : The hype around central banks, digital currencies, and blockchains
Posted on September 4, 2017 by antonylewis2015
*この記事はbitsonblocks.netより許可を頂き日本語に翻訳してご案内しております。

中央銀行、銀行間決済、ブロックチェーン、中央銀行発行「法定デジタル通貨(以下CBDC)」をめぐるセンセーションが広がり、話がややこしくなったり、論点がずれたりしつつある今日この頃。一体何が起きているのでしょう?実はふたつの異なる要素が、各国中央銀行によって積極的に模索されています。

本記事でこの2点を説明していきたいと思います。

銀行間決済システムの分散化

即時グロス決済(RTGS)、あるいは時点ネット決済(DNS)である銀行間決済システムは、中央銀行やその代理機関によって一元的に運営・管理されています。

これらの重要なシステムは非常に効率的で、経済はこれらシステムがスムーズに機能していることを前提にしていますし、そうあるべきでしょう。実際、一般的にはうまく機能しています。それでは一体なぜ、これらを分散化させたいというのか……なぜそのままではいけないのでしょう?

ものごとというのは、間違った方向に行く可能性があるからです。集中型システムは制御機能が一点にあるため、破綻の可能性を秘めています。

ここクイズです:ジンバブエ準備銀行と英イングランド銀行の共通点は何でしょう?—答えはこの過10年間に、どちらも即時グロス決済での失敗を経験していることです。

2008年1月に、ジンバブエ準備銀行の即時グロス決済システム(データセンターは南アフリカにある)がダウンし、電子決済が宙に浮いたままの状態になりました。

Zimbabwe money concerns shock. Source
より有名どころでは、2014年10月にイングランド銀行が、CHAPS(電子資金振替)システムを丸1日、技術的な問題で一部停止。人びとが家を買えない、大量の請求書が決済できないなど、ちょっとした混乱を招きました。

Disruptive FinTech?
米連邦準備制度理事会(FRB)議長を1987年〜2006年まで務めたアラン・グリーンスパン氏は、2007年出版の自伝『波乱の時代(The Age of Turbulence)』で次のように述べています。

「もし米国経済に悪影響を与えたければ決済システムを狙うことだ、と我々はいつも考えていた。銀行は非効率的な手作業での送金処理を余儀なくされることになるし、企業はバーター取引や借用証書(IOUs)頼みになる。米国全土の経済活動の水準が秋の日のつるべ落としさながらになってしまう。」

筆者はこれまで、国家が背後にいるサイバー攻撃は、あらゆる中央集中型システムにとって脅威であり、その洗練度は高くなっていると述べてきました。

リスク軽減:これで、なぜ中央銀行が、経済リスクの中心になってしまったり、ネックになってしまわないように、銀行間決済を電子的かつ効率的にできる可能性を模索しているのかがおわかりになったでしょう。分散型は潜在的に危険性が低く、システムを管理しているのが当の銀行でないとなれば、何かが起きた時も大恥をかかなくてもすみますしね。

プロジェクト:現在、一般公開されているプロジェクトとそうでないプロジェクトがあります。筆者は、シンガポールの通貨当局がR3と協力している「Ubin」という名のプロジェクトを第1章から共同で執筆しました(全文はPDF「Project Ubin SGD on Distributed Ledger.pdf」)。

Project Ubin. Full report.
このプロジェクトの次段階では、R3のCordaがこのユースケースで評価されているDLT(ブロックチェーン/分散型台帳技術)プラットフォームのひとつとなっています。(注:筆者はR3で働いており、Cordaは多くのユースケースに最高のDLTだと考えている)

2017年3月、香港の通貨当局がDLTの可能性を探るために、R3ほかと研究およびコンセプト実証を開始しました。香港の興味深い点は、ほとんどの紙幣が3つの銀行(HSBC、中国銀行、スタンダードチャータード)の手で発行されていることです(訳注:つまり中郷銀行がない)。

即時グロス決済システムに、分散型テクノロジーを使用することに興味を示している中央銀行はほかにもあります。

次の動き:今後数カ月、数年先までには、集中決済システムにとってかわるDLTのプラス面マイナス面を、レジリエンスやリスク削減、存在するかもしれないトレードオフの観点から、より詳しく知ることができるようになるでしょう。

中央銀行のデジタル通貨により広いアクセス

現在、誰もが物理的な紙幣と硬貨というかたちで、中央銀行の通貨にアクセスしています。しかしほとんどの国では、銀行や金融機関だけが、即時グロス決済や時点ネット決済システムに参加するために中央銀行に口座を持つことによって、中央銀行のデジタル通貨にアクセスできます。

なぜこれは重要なのでしょうか。物理的に持ってようと口座に入っていようと、確かにポンドはポンドで、ドルはドルでしょうか。……違います。中央銀行の通貨は、商業銀行の預金よりも安全です。銀行の預金は本来、適切な通貨でさえありません。これは銀行とあなたの間の契約なのです。つまり、銀行はあなたの口座から(一定の限度内で)あなたが決済したり、中央銀行発行の通貨をキャッシュディスペンサーから(一定の限度内で)引き出すことを、預金残高と1対1の割合で認め、あなたはあなたの預金を使って銀行がギャンブルすることを、取るに足らない利息で同意しているのです!

銀行は倒産する可能性がありますが、個人や企業としてデジタル経済に参加したいとなれば、銀行預金を利用するよりほかないのです。これは正しいことといえるでしょうか。デジタル資産を何かの危険にさらすことを余儀なくされていいはずがありません。何か別の方法があるはずです。

現在、デジタルの中央銀行通貨へのアクセスは、銀行間決済システムに関わる幸運な参加者に限られています。

でももし、中央銀行がより広いアクセスを許可すればどうなるでしょう。おそらく大企業、そして一般家庭さえも対象に。これが前述したCBDCの概念が出てくるポイントであり、中央銀行が現在模索している第2の項目です。

CBDCってなんだろう?

2016年7月、「The macroeconomics of central bank issued digital currencies」と題したイングランド銀行職員による報告書の中で、John Barrdear氏とMichael Kumhof氏が、CBDCについて次のように述べています。

“A universally accessible and interest-bearing central bank liability, implemented via distributed ledgers, that competes with bank deposits as medium of exchange.”
「分散型台帳を介した、普遍的にアクセス可能で利息付きの中央銀行のライアビリティは、為替の媒介として銀行預金と競合する」

それでは具体的にみていきましょう。

  • 普遍的なアクセス
    これは、市井の人びとが物理的な紙幣や硬貨を所有するように、このデジタル資産を所有できることを意味します。
  • 利息付き
    これは、通貨が口座に入っているだけでプラスマイナスの金利を引き寄せられることを意味します。現金とは異なり、10ボンドの紙幣は10ボンドのままで、年度末に10ポンド50ペンスや9ボンド50ペンスにはなりません(価格インフレや購買力、または誰かにお金を貸すときにあなたが得る利息とは無関係です)。
  • 中央銀行のライアリビリティ
    これは、当座預金の場合、あなたと商業銀行の関係ではなく、銀行紙幣のように口座を持つあなたと中央銀行の直接的な関係を意味します。
  • 分散型台帳を介しての実装
    これはテクノロジーの選択の問題です:CBDCは、中央型台帳ソリューションでも、分散型台帳ソリューションでも実行できます。John Barrdear氏とMichael Kumhof氏は、分散型台帳上でテスト走行させることにしました。
  • 為替の媒介として銀行預金との競合
    これは、お金がどのように使われるかを理解するのに役立ちます。この場合、銀行預金で支払いする代わりの支払いメカニズムとして使用されることが想定されています。

定義はそれだけにとどまらない

国際通貨基金(IMF)−−Dong He氏ほかによる「フィンテックと金融サービス:初期考察」と題したIMF職員の協議報告書では:

CBDCは通常の通貨と並ぶものではなく、広く入手可能なDLTベース法定通貨の代理である。 新たな口座ユニットの導入ではなく、新たな支払いや価値の蓄積方法の導入ということだ。CBDCはおそらく、中央銀行のそのほかのライアリビリティ(現金および準備金)と1対1で両替され、それは商業銀行経由で、あるいは中央銀行と直接行われる。少なくともこれが開始される時点では、利息付きではないだろう。

イングランド銀行の報告書とは対照的に、この場合、CBDCは利息がつかないため、現金により近いものとなります。

欧州中央銀行(ECB)—2017年1月16日にヘルシンキであった演説で、ECB理事会のEves Mersch氏が次のように述べました:

これは次のふたつに特徴づけられる通貨である:(1)流通している紙幣のように、DBM(デジタル・バンクマネー)は中央銀行における債権。(2)紙幣とは対照的にデジタルである。[中略]より最近の議論では、中央銀行がDBMをより広範の取引相手に提供し、一般家庭を含む非銀行系が中央銀行に口座を開設できるようにするかどうかについて議論が行われている。

中国人民銀行(PBOC)—中国人民銀行(PBOC)の英語版の記事では、商業銀行が顧客の代わりにCBDCを保有するモデルについて論じています。

すべてのCBDCに共通するものとは?

  • 中央銀行(商業銀行ではない)の直接責任である
  • 物理的ではなくデジタル(ただしDLTであろうとなかろうと、技術的な実装は異なる)
  • 現在よりも広いアクセス

中央銀行がCBDCの可能性を探索しているからといって、必ずしもそれが暗号通貨あるいは「トークン」であるという意味にはなりません。必ずしもブロックチェーンや分散型台帳に記録されるわけではないし、マイニングが存在するわけでも、中央銀行が通貨の発行・流通に対するコントロールを譲り渡すというわけでもないのです。たとえ中央銀行がブロックチェーン技術を検討しているとしても、ビットコインの価格にまで影響を及ぼすということでは決してありません!

今後何をはっきりとさせるべきか?

CBDCはまだ模索の段階ですが、経済的に重要な意味合いを持つ可能性は大いにあります。そして今後はっきりさせていかなければならないことも多くあります。

アクセシビリティ:アクセスの広さはどの程度になるのか? 一流企業のみなのか、あらゆる企業なのか、それとも個人までふくまれるのか。

現金のような財産性:どの程度、現金のように扱われるべきか?口座は匿名かつ無許可制にしないのか。所有権の履歴を難読化すべきか。第三者機関の検閲なしに即時決済にすベきか。

利息:利息をどうつけるべきか?利率は変動制か。誰が利息を支払うのか。誰が利率を定めるのか。

口座:コイン/ 残高は口座に保有すべきか、そして口座は第三者機関が開設すべきか−−ビットコインほか仮想通貨では公開鍵があなたの口座ですが、開設の際に第三者に頼る必要がありません。マウスを動かしてサイコロを転がすか、乱数を生成してからちょっとした算数をして、公開鍵をあなたの口座番号とすればいいだけです。

テクノロジー: 希望するプロパティに基づき、CBDCにとってもっとも適切なテクノロジーは何か。

プラス面とマイナス面:政府、中央銀行、商業銀行、企業、一般家庭にとってのメリットとトレードオフ(代償)は何か。

結論

リスク軽減の試みとして、重要なインフラストラクチャーのための新テクノロジーの探究に注目が集まっています。また、企業や一般家庭に、中央銀行への本当のデジタルアクセスを与えることの模索もされており、これが持つ経済的意味合いは非常に大きいものです。

中央銀行やブロックチェーンに関して、息もつけないような発表を次々と読むときは、一歩下がっていったい何が起きているのか把握することが重要だと思います。中央銀行がビットコインやイーサリアムのプロトコル・ソフトウエアの修正版プライベートフォークを使用しているからといって、ビットコインやイーサリアムの価格が月まで到達するわけでも、中央銀行がパブリックの仮想通貨を支持しているというわけでもありません。しかし中央機関が、これらの新しいツールが業務にどのような役割を果たせるかを知ろうと、分散型台帳技術に関心を示していることは確かです。