同じUSDCやUSDSを預けるVaultでも、表示APYには大きな差が生まれる。貸出金利、LP手数料、Funding Arbitrage、トークン報酬を分解し、利回りの持続性とリスクを見極めるための構造を整理する。
同じドル建て資産でも収益源は同じではない
Stablecoin Vaultを比較すると、同じUSDCやUSDSを入口にしていても表示APYには大きな差が生まれる。ここで注意したいのは、高いAPYが必ずしも高い貸出需要を意味しないことだ。Vaultは複数の戦略を組み合わせられるため、画面に表示される一つの数字の背後には異なるキャッシュフローが存在する。
重要なのはAPYの高さではなく、「誰が、何の対価として利回りを支払っているのか」を分解することである。
最も単純なのは借り手が支払う金利
AaveやMorphoなどのレンディングでは、基本的な利回りの源泉は借り手が支払う金利だ。Stablecoinへの借入需要が増えてUtilization Rate、つまり貸出資金の利用率が上昇すると供給金利も上がる。
このタイプの利回りは比較的理解しやすい。Borrow APY、Supply APY、Utilization、総借入残高を見ることで、実際の信用需要から収益が生まれているかを確認できる。
逆に利用率が低下すれば利回りも下がるため、高いAPYが恒久的に維持される構造ではない。
LP収益は取引活動から生まれる
DEXへStablecoinを供給するVaultでは、Swap Feeが収益源になる。取引量が多いほどLPが受け取る手数料は増えるが、TVLが増えれば同じ手数料をより多くの資本で分けるため利回りは低下する。
見るべき指標はVolume / TVLである。単なる出来高ではなく、預けられた資本がどれだけ効率的に回転しているかを見る必要がある。またStablecoin同士のPoolでもDepegが発生すれば資産構成が一方へ偏るため、ドル建てだから価格リスクが消えるわけではない。
Funding Arbitrageはデリバティブ市場から利回りを取る
別のVaultでは、現物とPerpetual Futuresを反対方向に持つDelta Neutral戦略が使われる。価格方向へのエクスポージャーを抑えながら、Funding Rateなどを収益として得る方法だ。
この利回りはレンディング需要ではなく、先物市場でレバレッジを取りたい参加者が支払うコストから生まれる。そのためFunding Rateが低下したりマイナスへ反転したりすれば収益も変化する。
さらに取引所、清算、Basis、担保管理など複数のリスクを抱えるため、Stablecoinを預けているだけに見えるVaultでも実際にはデリバティブ戦略へ資本が投入されている場合がある。
極端に高いAPYではRewardを分離する
APYを読む際に最も重要なのがBase YieldとReward Yieldの区別である。Base Yieldは貸出金利や取引手数料など経済活動から生じる収益。一方、Reward Yieldはプロトコルが発行するトークンなどによる追加インセンティブだ。
Rewardが大部分を占める場合、利用者獲得のための補助金として高い数字が表示されることがある。しかしToken Emissionが減れば、そのAPYは急速に低下し得る。
確認したいのはBase APY、Reward APY、TVL、Reward Tokenの発行量である。総APYだけを見るより、利回りが外部需要から生まれているのか、プロトコル自身が補助しているのかを判断しやすい。
日本から見るべきポイント
日本の金融機関や事業者がオンチェーン運用商品を評価する場合も、「Stablecoin運用」という分類だけではリスクを把握できない。貸付、LP、デリバティブ、RWA、インセンティブでは収益源も損失経路も異なる。
特にVault型商品では、ユーザーから見える資産と実際に運用される戦略の間にレイヤーが増える。運用先、カウンターパーティー、清算条件、Reward依存度まで開示できるかが商品設計上の重要なポイントになる。
まとめ
Stablecoin VaultのAPY差は、単なる運用能力の差ではない。借り手の金利、DEX手数料、Funding Arbitrage、プロトコル報酬など異なる収益源を一つの数字へ合成した結果である。APYを見るときは高さを比較するのではなく、Base YieldとRewardを分け、誰が収益を支払い、どの市場リスクを引き受けているのかを確認することが重要になる。







