皆さま、こんにちは!本記事は先日1月19日、26日に開催したNuCypherのワークショップのカメレポートの第2部となります!
第1部をご覧になっていない方はまず、ビジネスにおける”暗号化”を考える(1/2) NuCypher Workshopレポートをご覧ください。
第1部では、NuCypherの提供するサービスの概要である、KMS(Key-Management-System:鍵管理システム)からPRE(Proxy-Re-Encryption:プロキシ再暗号)、FHE(Fully-Homomorphic-Encryption:完全準同型暗号)についての説明で終えました。
本記事第2部では、このNuCypherの技術の活用領域について触れていきたいと思います。このセキュリティシステムが一体身の回りのビジネスにおいてどのような役に立つのか、考察させていただきます。
講師
2日目のワークショップの講師はピンクのヘアーが似合いすぎているNuCypherのエンジニアチームよりジョンよりレクチャーを行って頂きました!
John Pacific(ジョン パシフィック)
コンピューターサイエンスにおける名門、ユタ大学からスタートアップに身を投じ、サーバー構築からVoIPまで作り上げる等の様々な場数を踏んだエンジニア。
NuCypherは何をできるのか?
NuCypherが提供するKMS、PRE、FHEはビジネスにおけるどのような領域で活用できるのでしょうか。彼らが提唱する主なユースケースは「DropBoxのようなファイル共有サービス」、「自動運転に活用が期待されるクラウドソーシング マッピング データ」、また上記から付随される自己のID管理、グループコミュニケーション、コンテンツ配信ネットワークが挙げられます。
要するに、自分が指定した相手にのみデータを共有できるシステムですので、ファイルは勿論、ID(将来的に電子化された場合)、自分のGPS情報、メッセージ、コンテンツ(漫画、映画、アニメ、ETC)、ネットワークに繋がっているあらゆるモノへのアクセス権限(見せるor見せない)を簡単に管理ができるようになります。
どのような分野での活用が期待されているのか?(医療)
上図はNuCypherの完全準同型暗号を用いたユースケースの一つである、”医療”での活用を説明するスライドです。
(1)
ユーザー(患者)は報酬(トークン)をインセンティブに、自分の医療情報をブロックチェーン(正確にはサイドチェーン)に暗号化された状態でアップロードします。
(2)
メインのブロックチェーン上には限定的な情報(誰が、いつ記録、暗号化テキスト等)が記録されますので、誰でもブロックチェーンに記録された情報を閲覧できるとはいっても、その情報がプライバシーを侵害することはありません。
(3)
A.例えば、初診の病院を訪問したとしても、そのお医者さんに自分の医療情報へのアクセス権限を付与すれば(ブロックチェーン上に記録された暗号化テキストとなった医療情報を複合)、どこの病院でも充分な状態での診療を受けることができます。
B.お医者さん、研究者らはユーザーのプライバシーを侵害することなく、暗号化テキストのままブロックチェーン上で、統計処理を行うことができますので、膨大なサンプルサイズを扱えるようになります。
*おそらくユーザーへの報酬(トークン)はここから発生するのでしょう
他のブロックチェーンを研究・開発する企業もそうですが、やはり自分で自分の情報を管理する時代になるという考えがあるようです。上記の例でいえば、自分の医療情報となります。
現在、自分が自分であるということは、役所や自治体に行って証明書を発行してもらっていますが、今後あらゆるものがデジタルになっていく中で、あなたのIDはあなた自身が管理するようになっていきます。パスポートや運転免許証もデジタルになっていくのかと。
このデジタルIDが実現すると、タバコやお酒を買う際の年齢確認も、証明書を見せることなく、Seamless(障害なく)、普通のモノを買う感覚で購入できることができます。
病院に行った際にも保険証を提示する必要もなくなるでしょう。
どのような分野での活用が期待されているのか?
(Crowd-Map-Sourcing)
Crowd-Map-Sourcing(クラウド マップ ソーシング)とは、様々なデバイス(スマホ)が自身の位置情報を発信して、グラウドで多数の位置情報を統合し、地図(マップ)を作成する技術です。この技術は例えば自動運転の際に活用できます。道路を走る膨大な車両の位置情報を集積して、より精度の高い運転性能の向上に役立てます。
しかし、ここにおける問題が「誰が」、「どこにいるのか」、というプライバシーな情報が漏れる可能性がある点です。
くどいようですが、このような場面で完全準同型暗号はとても適切です。クラウド上に暗号化したまま位置情報を置いたまま、統計処理をすることができるためプライバシー情報が漏れることなく、膨大なデータを役立てることができます。
どのような分野での活用が期待されているのか?
(コンテンツ配信)
勘の良い方は思いついていたかもしれませんが、このNuCypherは映画、音楽、漫画やアニメの配信ネットワークにも活用できそうです。
実際NuCypher側も、主なユースケースの一つとして挙げています。誰でもデータベース自体にはアクセスができながら、コンテンツ自体にはアクセス権限が無いと閲覧できないようなシステムができれば、海賊版や無断転載に苦しんでいたモラルのないインターネットをある程度規制できる期待が持てます。
まとめ
(Workshopでの質問とNuCypherのどこが分権的な構造なのか?)
あらゆるユースケースをご紹介して、NuCypherで何でもできる様な印象を持たれたかもしれませんが、技術的な課題は勿論あります。ここでは、Workshopの参加者から頂いたご質問とその回答をご紹介します。また、今更ですが、NuCypherのどこでブロックチェーンを活用しているのかについても最後に触れていきたいと思います。
Q1. NuCypherにおいて、ファイルを共有する際には、受け手は送り手の公開鍵を知っていなければならないのか?
Answer. はい。現在のバージョンでは、公開鍵を事前に知っている必要があります。しかし、次のアップデートの際には、公開鍵を知らなくとも支払いさえあれば、プロキシを通して、データの授受を行うことができるような仕様になります。
Q2. 例えば、暗号化されたテキストが膨大なデータ量になった場合の計算処理にかかる速度は大丈夫か?
Answer. ハッシュ化等で、暗号化テキストのサイズはある程度コントロールできますので、計算処理における速度は問題ないと考えています。
Q3. プロキシ=ネットワークのノードという理解で合っているのか?
Answer. プロキシ=ノード、という理解で間違いないです。
Q4. 分散的なネットワークを構築しているが、プロキシの安全性(通信する保証、復号化しない)は保証できるのか?
Answer. 現在はPre-net段階で、プロキシは限られたパートナーによって提供されています。Main-net段階では、既存のネットワーク(Ethereum等)のMinerの活動を鑑みて、彼らをNuCypherネットワークに引き入れられるようなインセンティブ設計を施行します。また、プロキシはNuCypherトークンの保有が必須となり、もし復号に応じない等のネットワークの動きに相反することがあればトークンを没収したりして、違反をすると損をするような設計を考えています。
さて、NuCypherの暗号化に焦点を絞ってここまで紹介してきましたが、彼らはブロックチェーンをどのように活用しているのでしょうか。
上記のように、NuCypherではトークンエコノミーを採択しています。ユーザーはデータをNuCypherのネットワークにアップロードしていくように、報酬を得られるようなインセンティブ設計がされています。研究機関や大学、企業はNuCypher上のデータにアクセスしたい時には、費用を支払う必要があり、それらの費用がユーザーに還元されています。
NuCypherネットワークでは、それらの決済履歴、アクセスのリクエスト履歴、またネットワークのどのプロキシにデータが分散管理されているのかという所謂、分割されたデータの位置情報がブロックチェーンに記録されます。
分割されたデータの位置情報とはどういうことか。NuCypherでは、ユーザーのデータを一つのプロキシで管理するわけではなく、複数のプロキシに分割して、保管します。NuCypherのブロックチェーンには、それらのプロキシの位置情報(どこに、どのデータを保存したのか)を記録しています。そして、データの管理を受け入れるプロキシ側にも報酬(賃料とも捉えられます)が発生します。
このシンプルなトークンエコノミー設計と暗号技術を極限にまで追求するNuCypherは正にクラシックなブロックチェーン系企業で、非常に興味深いです。
個人情報をKMSによってアクセスを制限、管理し、分散型データストレージの活用で高度なセキュリティーを可能にする。ビックデータの利用が注目されている中で起こりうるプライバシー保護の問題への解決策の一つを提示するNuCypherの暗号化技術は今後のWeb3.0の時代に必要不可欠な技術の1つになるかもしれません。
Blockchainによって活用可能性が高まった分散型データストレージと研究が盛んに進む暗号化技術、そしてNuCypherの今後をブロックラビット編集部は引き続き追いかけていきます!
最後に
今回2週にあたり会場を提供して下さったのはグローバルな越境EC事業を手掛ける株式会社Beenos様。
品川駅からすぐのオフィスを無料開放して下さいました!
東京タワーも見えるとてもおしゃれで設備の整った会場とスタッフの皆様のご協力のおかげで2日間のワークショップを無事行う事が出来ました。
Beenos様2日間、誠にありがとうございました!