クリプト訪ねて三千里 第1581話:Tokenized Stockを担保にUSDCを借りる、Morphoが広げるオンチェーン信用市場

MorphoがBase上でCoinbaseのTokenized Stockを担保にUSDCを借りる市場を展開した。株式を売却せず流動性を得る仕組みを、LLTV、Oracle、Liquidation、取引時間差というDeFi特有の論点から整理する。

RWAの次の論点は「保有」から「担保利用」へ

Tokenized Stockはこれまで、株式へのオンチェーンアクセスや24時間取引という文脈で語られることが多かった。だが金融商品としての価値を考えるなら、保有や売買だけでなく「何に使えるか」が重要になる。

MorphoはBase上で、Coinbaseが発行するApple、Alphabet、NVIDIA、Meta、SpaceXの5種類のTokenized Stockを担保に、USDCを借りられる市場を提供している。対象Tokenは実株式を1対1で裏付け資産として保有する設計で、Self-custody WalletからDeFiへ持ち込める。

9月18日時点では約10.4万ドル相当のTokenized Stockが担保として預けられ、約5.5万USDCが借りられていた。規模はまだ小さいが、RWAが「価格エクスポージャー」から「信用創造の担保」へ進む構造を観察するには興味深い。

株式を売らずにドル流動性を取り出す

Stock-backed Lendingの基本構造はシンプルだ。利用者は株式Tokenを担保に入れ、その価値の一定範囲までUSDCを借りる。株式そのものを売却しないため、価格上昇や配当に相当する経済的エクスポージャーを維持しながら流動性を確保できる。

Morphoでは市場ごとにLLTV、Liquidation Loan-to-Valueが設定される。これは担保価値に対して、どこまで借入を許容するかを決める閾値だ。Apple、NVIDIA、Meta、SpaceXの市場では62.5%、Alphabetでは77%のLLTVが設定されている。

貸し手側のUSDCはCuratorが管理するVaultから供給される。つまりProtocolが一律にリスクを決めるのではなく、Steakhouse FinancialのようなCuratorが担保、金利、資金配分を評価する。ここにDeFi Lendingの分業構造がある。

問題は24時間動くDeFiと株式市場の時間差

Crypto担保とTokenized Equity担保の最大の違いは、Underlying Assetの市場構造だ。

EthereumやBitcoinは24時間価格形成される。一方、AppleやNVIDIAの現物株式には取引所の営業時間がある。Token自体はBlockchain上で24時間移転できても、その基準となる株価のPrice Discoveryは常に同じ深さで続くわけではない。

そのためOracleが重要になる。Oracleとは外部市場の価格をSmart Contractへ供給する仕組みだ。株式市場が閉まっている時間帯にTokenの需給が急変した場合、参照価格、実際のToken価格、清算判定の間にズレが生じる可能性がある。

さらにTokenized Stockの流動性が薄ければ、Liquidation時に担保を市場価格近辺で処分できないリスクもある。DeFiでは「価格を取得できること」と「その価格で実際に売却できること」は別問題だ。

高Utilizationは需要とLiquidity Riskの両方を示す

初期データではApple、Alphabet、NVIDIA市場のUtilizationが90%前後、Meta市場では一時97%近くまで上昇した。Utilizationは貸し出されたUSDCが供給額に占める割合で、高いほど借入需要が強いことを示す。

一方、貸出可能なUSDCが少なくなると金利は急上昇する。Meta市場では高Utilization時にBorrow Rateが17%台まで上昇した後、流動性の回復とともに5%台へ低下した。

この動きは、新しい担保市場ではTVLだけでなくUtilization、Borrow Rate、Available Liquidity、Liquidationを同時に見る必要があることを示している。

日本で重要になるのは資産の「組成」より利用可能性

日本でもSecurity TokenやTokenized RWAの議論は進んでいるが、発行して保有できるだけではオンチェーン金融としての用途は限定される。

次の段階では、Tokenized Assetを担保、Vault、Credit、Settlementへ接続できるかが重要になる。ただし株式Tokenは証券規制や販売地域の制約を伴う。今回のCoinbase Tokenized Stocksも米国人など一部地域には提供されていないため、日本で同様の仕組みを構築する場合はTokenの法的性質とDeFi利用を分けて検討する必要がある。

まとめ

Morphoの株式担保市場が示しているのは、Tokenizationの価値が「Blockchain上で株式を売買できる」ことだけではない点だ。

資産がProgrammableになれば、保有したままCollateralとして使い、USDCを借り、別の金融取引へ接続できる。一方でOracle、営業時間差、Liquidity、Liquidationという新しいリスクも生まれる。

RWAが本格的なオンチェーン金融へ発展するかを判断するには、Tokenized Assetの発行額だけでなく、その資産がどれだけ担保として利用され、どの程度の信用と流動性を生み出しているかを見る必要がある。