2018年5月24日〜25日まで、バルト三国のひとつエストニアの首都タリンで、テクノロジーカンファレンス「Latitude59」が今年も開催。BLOCK RABBITもオフィシャルパートナーメディアとして参加して参りました。国内外の参加者による様々な基調講演やセッションが催され、多数のスタートアップが集結。BLOCK RABBITもサイト内やTweetで、ブロックチェーン関連のプレゼンや参加者に焦点をぎゅっとしぼって、その様子をほぼリアルタイムで発信してまいりました。
北欧の小国の意外な横顔
エストニアと聞いてもどこ?という感じで、「ああ、あそこね、元ソ連の一部でフィンランドと海を挟んだところにあるEU加盟国」などとピンと来る人はあまりいないと思います。面積は九州ほど、人口は福岡市よりも少ないバルト海沿岸の小国です。でもBLOCK RABBITフォロワーの皆さんの中には、エストニアが「電子政府化」に成功した世界最先端のデジタル国家であることをご存知な方も多いのではないでしょうか。Skypeが誕生した国としても有名ですよね。
ソ連時代からのIT関連技術を駆使して構築した情報基盤連携システム「X−ROAD」……5万以上の機関がこのブロックチェーン・プラットフォームで繋がっており、あらゆるデータを安全にやりとりしているそうです。エストニアはこの技術を駆使して、行政や医療機関での手続きをほとんどデジタル化(自動化)しました。15歳以上の国民はICチップ入りの身分証明書の保持が義務づけられていて、運転免許証や健康保険証、定期券として利用したり、投票までできてしまいます。あらゆる公共サービスを電子化する「ゼロお役所仕事」を目指す国なのです。
日本も注目し始めた技術革新
こうした試みは当然世界各国から注目を浴びていて、今年1月には安倍首相も自らエストニアを訪れました。その際には2国間の政府レベルでの関係強化にも言及。エストニア発のデジタルテクノロジーが日本で展開されていくことへの期待が高まっています。税務署や市役所の手続きに手書きの書類提出が必要なくなる日が近い将来日本にもやってくるかもしれませんね。
この時安倍首相に同行したのがエストニアと日本のハイブリッド企業「プラネットウェイ」代表の平尾憲映氏でした。エストニアで開発されたテクノロジーを日本の民間企業向けにカスタマイズして展開しているスタートアップで、近頃、損害保険大手と一緒に行った契約関連や医療情報に関する安全なやりとりの実証実験を成功させたそうです。
と、ちょっと前置きが長くなりましたが、エストニア経済通信相の経済開発部で局次長を務め、現在はプラネットウェイ・ヨーロッパの共同設立者兼取締役のラウル・アリキヴィ(Raul Allikivi)さんに、今回訪れたLatitude59会場で突撃インタビューしました。
エストニアの技術で日本を変えたい
現在取り組んでいることについて語ってくださいとお願いすると、「エストニア電子政府のインフストラクチャを日本で展開することです。まずは民間企業のために、エストニア政府が使っているのと同じテクノロジーをカスタマイズしようとしています」と語ってくれました。
日本の公共機関ではまだ中央・政府レベル共々、こうした技術を展開するインフラが整っていないため、まずは民間レベルでの協力・展開が現実的ということですね。「これまでのところ素晴らしい協力関係が築けていますよ」とアリキヴィさん。「私たちが取り扱うのは非常に繊細な個人データですが、日本ではまだこれらをめぐる手続きや処理がほとんどすべて紙の書類ベースで行われています。これは膨大な時間と手間を要するだけでなく、こうしたデータが非常に多くの人の手にふれ、目を通ることを意味するのです」と指摘しました。「それを私たちの技術で変えたいと思っており、できると確信しています。」
そこでBLOCK RABBITは、民間企業内での可能性からさらに視点を広げて、日本社会、日本の人たちにこうしたブロックチェーンベースの安全な情報共有システムの利点について語ってほしいとリクエストしてみました。
「エストニアは、ブロックチェーン技術を積極的に公共機関内に取り入れているという点で非常に先駆的で、世界的にもユニークな存在です。私たちはブロックチェーン技術こそが、現在世界が抱えているあらゆる問題に対する答えだと信じているのです。そして一定の目的に対して非常に有効です。たとえばデータのインテグリティ(整合性)ですね。これが第一です。そしてポータビリティ(可搬性)、コンフィデンシャリティ(機密性)があります。それはどういうことかというと、格納されたデータが正確かつ安全であることを保証できるということです。」
そこでアリキヴィ氏が例として挙げたのは個人の医療情報。扱いの繊細さが求められるプライバシーの核心といってもいいデータの一つです。「自分の医療情報はもっとも外部に漏えいしてほしくないもののひとつですよね。同時に何らかの理由で他者に改ざんざれるようなことが、絶対あってはならないもののひとつでもあります。改ざんされた偽りの情報をもとに治療されてしまったら?なんて考えただけでも恐ろしい。ここで非常に大事になってくるのがデータのインテグリティということです。」
「エストニアではこうして、ブロックチェーン技術が日々の生活に積極的に活用されています。可能性は無限大で、そのためにプラネットウェイが果たせる重要な役割があると思っています。市井の人たちはまだこうしたテクノロジーが存在することさえ知らないかもしれません。でも、実際にはすでに稼働し、機能しているのです。」
カード1枚ですべてがまわる時代の到来?
最後は満面の笑みで締めてくれたアリキヴィ氏でした。今後は民間だけでなく、政府レベルでもブロックチェーン技術が活用されていく時代が日本にもやってくるかもしれません。ちなみにエストニアが兄貴分として仰いでいるフィンランドでは、国民の賛同が得られずに、ICチップ入りの身分証明書導入に失敗しています。政府が発行する1枚の身分証明書に投票から納税、医療保険、経済情報に至るまで、ほぼすべての個人情報が収められていることに反発や抵抗感を抱く人たちがいるのは、全く不思議なことではありません。
電子政府に対する信頼を国民が持てるようになるには、透明性が重要になってくるでしょう。公共サービス関連手続きの「効率性」や「簡易性」だけで押し切れるものではありません。エストニアはこうした透明性を実現するための法整備を政府の電子化にあたって進めてきました。政府の公文書や政治家の収入、個人献金額などもすべて公開され、インターネットで簡単に閲覧できるそうです。
ちなみに、トランスペアレンシー・インターナショナルが毎年公開している「腐敗認識指数」という各国の汚職をめぐる清潔さランキングの最新版(2017年度)では、フィンランドが清潔度3位、日本が21位、そのすぐ後ろの22位にエストニアがランクインしています。さて、この数字をどう解釈するかはそれぞれにおまかせするとして、今後、日本でもエストニア発の技術がどのように展開されていくのか注目していきたいところです。