クリプト訪ねて三千里 第1560話:RWAの次の競争は「償還」か、RedStone SettleがNYLIMのトークン化債券にT+0流動性を持ち込む

RWAでは発行技術だけでなく、償還速度と担保処分の確実性がDeFi利用を左右する。RedStone SettleがNYLIMのトークン化高利回り債券ファンドHYBにT+0退出を持ち込む仕組みと、流動性インフラとしての意味を整理する。

トークン化しても決済時間は消えない

RWA市場では、株式や債券、ファンド持分をブロックチェーン上で発行する技術が急速に整ってきた。しかし、トークンが24時間移転できても、裏側の資産まで即時に現金化できるとは限らない。特に社債やプライベート市場の商品では、オンチェーンの速度と伝統金融の決済サイクルの差が、DeFiでの担保利用を難しくする。

New York Life Investment Management(NYLIM)がCentrifugeを通じて立ち上げたHYBは、米国ハイイールド社債戦略をオンチェーン化した同社初のトークン化商品で、申込・償還にはUSDCを利用する。運用する信用戦略そのものを変更するのではなく、ファンドへのアクセスと持分管理をオンチェーン化した商品である。

DeFiで問題になるのは「売れるか」より「いつ現金になるか」

HYBの通常の償還はT+3である。長期投資家にとって3営業日は必ずしも大きな問題ではないが、レンディングでは事情が異なる。担保価値が下落して清算条件に達した場合、プロトコルは数日後ではなく、その場でポジションを解消できなければならない。

RedStone Settleは、この時間差をsolverと呼ばれる流動性提供者へ移転する。KYCを通過したsolverがオークションで競争し、HYB保有者や清算プロセスへ即時にUSDCを提供する。solverはHYBを引き取り、その後通常の償還手続きを待つ。つまり資産自体のT+3をT+0へ変えるのではなく、「待つ主体」を投資家から専門の流動性提供者へ移している。

流動性を外部化する市場構造

この仕組みでは即時退出にコストが伴う。RedStoneによれば、保有者は額面に対して一定のディスカウントを受け入れる代わりに、通常の償還期間を待たずに退出できる。solver側はその価格差と、資金を数日間拘束するコストを比較して入札する。

構造的には、これはRWA版の流動性市場と見ることができる。発行体が常に即時償還用の現金を大量に保有する代わりに、外部の資本が必要なときだけ流動性を提供する。重要なのは「トークン化されたか」ではなく、ストレス時にも買い手が存在し、どの価格で換金できるかである。

Morphoへの接続が示す次の段階

RedStoneはHYBを利用するMorpho市場を準備しており、Steakhouse FinancialがキュレーションするVaultも計画されている。現時点では予定段階を含むため、実際の預金規模や借入需要を評価するには稼働後のデータ確認が必要だ。

オンチェーンで見るべき指標は、HYBの供給残高、USDCによる申込・償還フローに加え、Settle稼働後のオークション成立価格とディスカウント幅、清算件数、solverの参加状況である。特にディスカウントが平常時と市場ストレス時でどう変化するかは、RWAの実質的な流動性を測る指標になる。

日本にとって何を意味するか

日本でもトークン化証券やオンチェーンファンドが広がる場合、発行基盤だけを整えても金融商品として十分とは限ない。DeFiや担保金融まで接続するには、価格評価、償還、清算、流動性供給を一体で設計する必要がある。

海外のRWAインフラ企業が日本市場へ参入する際も、競争軸は単なるトークン発行機能から、二次流動性や担保処分まで含む市場インフラへ移っていく可能性がある。

まとめ

RedStone Settleが解こうとしているのは、ブロックチェーンの処理速度ではなく、オンチェーン資産とオフチェーン資産の時間差である。RWAの発行が一般化するほど、次に問われるのは「誰が買うのか」「いつ償還できるのか」「清算時に誰が流動性を出すのか」になる。トークン化金融の競争は、発行から流動性設計へ移り始めている。