クリプト訪ねて三千里 第1532話:DeFiレンディングの金利はどう決まるのか:Utilization Rateと動的金利モデルの限界

DeFiレンディングの金利形成を、Utilization Rate、Kink型金利曲線、Supply APYの仕組みから解説します。AaveやMorphoの設計を比較し、利用率だけで信用リスクを価格付けすることの限界も整理します。

DeFiの金利は誰が決めているのか

DeFiレンディングでは、銀行のように担当者が貸出金利を決定するのではなく、スマートコントラクトに組み込まれたInterest Rate Model(IRM)が金利を自動計算します。

代表的なAaveでは、プール内の資金がどれだけ借りられているかを示すUtilization Rate(利用率)が金利形成の中心です。借入需要が増えて利用可能な流動性が減るほど借入金利を引き上げ、返済や新規供給を促す構造になっています。

この仕組みは透明性が高い一方、利用率だけで借り手のリスクを十分に価格へ反映できるのかという課題もあります。

Utilization Rateとは何か

Utilization Rateは、レンディングプールに供給された資産のうち、どの程度が借りられているかを表す指標です。

概念的には次のように表せます。

Utilization Rate = 借入残高 ÷ 利用可能な総流動性

利用率が低い場合、プールには十分な資金が残っているため、借入金利を高く設定する必要性は限定的です。

反対に利用率が100%へ近づくと、貸し手が資産を引き出すための流動性が不足します。そのため金利を上昇させ、借り手には返済を、貸し手には追加供給を促します。

Kink型金利モデルとは

Aaveなどで利用される代表的な仕組みがKink型の金利曲線です。Kinkとは金利曲線の傾きが変わる屈曲点を意味します。

一定のOptimal Utilizationまでは、利用率上昇に対して借入金利が比較的緩やかに上昇します。しかし最適利用率を超えると、金利上昇の傾きが急になります。

この急勾配には、プールの流動性が枯渇することを防ぐ役割があります。

つまり金利は単なる収益率ではなく、レンディング市場の流動性を制御するためのインセンティブ設計でもあります。

Supply APYはどこから生まれるのか

貸し手が受け取るSupply APYは、借り手が支払う金利から生まれます。

借入金利が高くても、利用率が低ければ実際に支払われる利息総額は限定されます。反対に、多くの資産が借りられていれば貸し手へ分配される収益も増加します。

また、プロトコルがReserve Factorなどを設定している場合、借り手が支払った利息の一部はプロトコル側へ配分されます。このためBorrow APYとSupply APYは一致しません。

MorphoのAdaptiveCurveIRM

近年は固定的なKink曲線だけでなく、市場環境に応じて金利水準自体を調整するモデルも利用されています。

MorphoのAdaptiveCurveIRMでは、利用率を一定のターゲット付近へ維持することを目的に、金利曲線を時間とともに調整します。

利用率が目標を継続的に上回れば金利水準を引き上げ、下回れば引き下げることで、需要と供給の均衡を自律的に探ります。

単純なKinkモデルより市場環境へ適応しやすい一方、金利変化が借り手や貸し手の行動へどの程度影響するかという前提に依存します。

Utilization型モデルの限界

最大の問題は、利用率が「流動性需要」を測る指標であって、「信用リスク」を直接測る指標ではないことです。

例えば、同じ利用率80%でも、流動性の高いETHを過剰担保で借りる市場と、信用リスクのあるRWAを担保にする市場では、本来必要なリスクプレミアムは異なります。

しかし単純な利用率ベースモデルでは、この違いを金利へ十分に反映できません。

そのためDeFiでは、過剰担保、LTV、清算閾値、Supply Capなどを金利モデルとは別のリスク管理レイヤーとして利用しています。

信用リスクを金利へ反映する研究

最近では、借り手や担保ごとのProbability of Default(PD:デフォルト確率)を推定し、信用リスクに応じて金利を動的に決定するモデルも研究されています。

これは伝統金融に近い考え方で、利用率だけではなく期待損失を金利へ織り込むことを目指します。

特に企業債権や請求書などのRWAをオンチェーンレンディングへ組み込む場合、過剰担保だけでは資本効率が低いため、信用リスクそのものを価格付けする仕組みが重要になります。

ただし、デフォルト確率を誰が算出するのか、オフチェーンデータをどう検証するのかという新たなオラクルリスクも発生します。

金利を見る際に確認したい指標

DeFiレンディングの利回りを評価する際は、表示されているSupply APYだけを見るのでは不十分です。

  • Utilization Rate
  • Borrow APY
  • Available Liquidity
  • Supply Cap・Borrow Cap
  • 担保資産とLTV
  • 清算メカニズム
  • インセンティブ報酬の有無

高いAPYが借入需要によるものなのか、流動性不足によるものなのか、トークンインセンティブによって一時的に押し上げられているのかを分けて確認する必要があります。

まとめ

DeFiレンディングの金利は、主にUtilization Rateを基準としたInterest Rate Modelによって自動的に決定されます。AaveのKink型モデルでは流動性が不足すると金利を急上昇させ、MorphoのAdaptiveCurveIRMでは目標利用率へ近づくよう金利水準自体を調整します。

一方、利用率は流動性の需給を示す指標であり、借り手や担保の信用リスクを直接価格付けするものではありません。RWAや低担保型レンディングが拡大するほど、将来的には利用率に加えて信用リスクや期待損失を組み込む金利設計が重要になります。

DeFiの金利を分析する際はAPYの高さだけではなく、その金利がどのリスクと需給構造から生まれているのかを確認することが重要です。