HIFIがLeft Lane Capital主導で3,700万ドルのシリーズAを調達しました。Stablecoin決済だけでなく、財務、カード、Repo、Tokenized Assetまでを一つのAPIで接続する構想と、他社調達との違い、日本市場への影響を読み解きます。
3,700万ドルのSeries Aが示す市場の変化
Stablecoin関連企業への大型投資は珍しくなくなりました。しかし、HIFIがLeft Lane Capital主導で調達した3,700万ドルのSeries Aは、単なる決済Startupへの資金供給とは少し性格が異なります。
HIFIは2022年にZach Walsh氏とMo Afifi氏がニューヨークで創業しました。現在はStablecoinと銀行送金を接続するAPIを提供し、年間換算で70億ドル超を処理しています。顧客企業を通じて1万社超の法人、20万人超の個人が利用しており、既存顧客の利用量は直近6カ月で4倍以上に拡大したとしています。
今回の資金は、追加ライセンス取得、ニューヨークと海外での採用、そしてPaymentsからCards、Capital Marketsへの拡張に使われます。Left Lane CapitalのMatt Miller氏は取締役にも加わり、AntlerやTetherもラウンドに参加しています。
重要なのは、HIFIが「Stablecoinを送る会社」から、Tokenized Moneyを利用して金融商品そのものを組成するInfrastructure Providerへ進もうとしている点です。
他のStablecoin資金調達と何が違うのか
Stablecoin Infrastructureでは大型調達が続いています。RainはStablecoin連動カードを中心に2,450万ドルのSeries Aを実施しました。RangeはStablecoinとFiatを横断するTreasury、Risk、Compliance基盤として830万ドルのSeries Aを調達しています。BVNKは企業向けStablecoin Paymentを拡大するためSeries Bで5,000万ドルを調達しました。またM0はStablecoin発行Infrastructureを軸にSeries Bで4,000万ドルを調達しています。
この比較で見ると、HIFIの3,700万ドルはSeries Aとして比較的大きな規模です。ただし、本当の違いは金額ではありません。
RainはCard Issuing、M0はStablecoin Issuance、RangeはTreasury Operationsという明確な入口を持っています。HIFIはそれらより広く、Bank Account、Fiat Rail、Stablecoin Mint/Redeem、Cross-chain Settlement、Compliance、Card、Tokenization、Capital Marketsを一つの開発基盤として扱おうとしています。
つまり競争相手はStablecoin Payment Startupだけではありません。Stripe傘下のBridge、BVNK、zerohashのようなOnchain Infrastructure企業から、将来的にはCustodian、Banking-as-a-Service、Capital Markets Middlewareまで競争範囲が広がります。
「チェーン記載なし」はむしろHIFIの特徴
HIFIを特定のBlockchain Startupとして理解すると本質を見誤ります。同社は単一チェーンを前提としていません。
Ethereum、Polygon、Base、Tron、Solana、Flow、XRPLに加え、金融機関向けのCantonやCircleのArcにも対応しています。USDCだけでなく、USDG、PYUSD、RLUSDのMint/Redeemや、USDTの利用にも対応しています。
企業側から見ると「Ethereumを導入する」「Solanaを導入する」という発想ではなく、HIFIのAPIを利用し、用途に応じてChain、Stablecoin、Bank Railを選択する構造です。
これはCloud Infrastructureに近い考え方です。企業がServerやNetworkの詳細を毎回意識せずCloud APIを利用するように、Blockchainも金融商品のBackendへ隠れていきます。
HIFI自身が掲げる「Money is becoming software」という考え方もここにあります。Stablecoinを単なるDigital Dollarではなく、APIから条件を設定し、ルーティングし、決済し、担保として利用できるSoftware Objectとして扱っています。
PaymentsからCapital Marketsへ進む理由
今回の調達で特に注目すべきなのはCapital Marketsです。
HIFIはすでにDTCCのTokenized Repo Pilotに参加しています。またTradeweb上でDRWとMarexが行ったTokenized Repo取引では、Canton Network上でUSDCxをCash Legとして決済するInfrastructureを支えました。
Repoとは、証券を担保に短期資金を貸し借りする取引です。従来は証券移転、Cash Settlement、Collateral Managementが異なるシステムで処理されることがあります。Tokenized AssetとTokenized Cashが同じProgrammable Infrastructureへ入れば、資産移転と支払いを近いタイミングで同期させやすくなります。
HIFIが狙っているのは、Stablecoinを企業送金に使うだけではなく、「Cash Leg」と「Asset Leg」をSoftware上で接続する市場です。
例えばTokenized Treasuryを担保として差し入れ、Stablecoinを受け取り、満期になれば返済と同時にCollateralを解除するといった処理をSmart ContractやAPIで自動化できます。金融商品の発想そのものは古くても、24時間動くLedger上に載せることでOperational CostとSettlement Frictionを変えられる可能性があります。
収益機会はTransaction Feeだけではない
Stablecoin Infrastructure企業を見る際には、送金量だけで評価しないことが重要です。
HIFIのPlatformにはFiat Account、On/Off-ramp、Stablecoin Conversion、International Payout、Compliance、Card、Tokenizationなど複数の機能があります。したがって将来的な収益源も、単純な送金手数料だけでなく、FX、Conversion、Account Infrastructure、Card Economics、Compliance Service、Capital Markets Workflowなどへ広げられます。
この構造は決済専業企業との違いになります。Transaction Volumeが大きくなってもPayment Marginは競争によって圧縮されやすいため、より付加価値の高いTreasury、Custody、Collateral Management、Capital Marketsへ進む合理性があります。
一方で、事業範囲を広げるほどLicense、Custody、AML、Counterparty Risk、Operational Riskも増えます。今回の3,700万ドルの一部を追加ライセンス取得に充てるのは、Software開発だけでは金融Infrastructure企業になれないことを示しています。
VisaとDTCCの両方につながっている点がユニーク
HIFIのポジションを理解するうえで興味深いのが、Retail Payment NetworkとInstitutional Capital Marketsの両方に接続していることです。
Payment側ではVisa Directと連携し、Stablecoinを資金源としてCardへのPayoutを行う仕組みを展開しています。Circle Payments Networkとの統合も進めています。
一方、Institutional側ではDTCC、Tradeweb、Canton Networkと接続しています。
通常、Consumer PaymentとInstitutional Securities Settlementは別のInfrastructureとして構築されます。しかしStablecoinやTokenized Deposit、Tokenized Treasuryなどが同じProgrammable Assetとして扱われるようになると、その境界が薄くなります。
企業の売上をStablecoinで受け取り、一時的にTokenized Treasuryで運用し、必要なタイミングで換金してSupplier PaymentやCard Settlementへ回す、といったTreasury Workflowを同じInfrastructure上で組み立てられる世界が視野に入ります。
この「PaymentsとCapital Marketsを一つのMoney Stackとして扱う」点が、今回の資金調達を他のStablecoin Startupと比較した際の大きな特徴です。
日本市場へのインパクトは大きい
日本ではStablecoinの議論が「どのStablecoinを発行するか」に集中しがちです。しかしHIFI型のInfrastructureが普及すると、競争軸はIssuerだけではなくなります。
日本ではFiat連動Stablecoinは電子決済手段として制度化されており、その移転や仲介には規制対応が必要です。さらにTravel Rule、KYC/KYB、AML、海外送金、銀行口座との接続まで考えると、金融機関やFinTechが自前ですべてのInfrastructureを構築する負担は大きくなります。
ここにHIFIのようなAPI Layerが入る余地があります。
例えば日本企業が海外Supplierへの支払いを行うケースでは、JPYからStablecoinへ交換し、Blockchain上でTransferし、相手国のLocal CurrencyへOff-rampするまでを一つのWorkflowとして組成できます。企業Treasuryでは、夜間や休日にも動くStablecoinをCash Managementへ組み込むことができます。
また、日本の金融機関がTokenized FundやSecurity Tokenを展開する場合、「資産をToken化する」だけでなく、購入に使うCash Leg、償還、Distribution、Collateral、Cross-border Settlementまで設計する必要があります。HIFIがCapital Marketsへ進む意味は、日本市場にとってもこちらの方が大きいでしょう。
日本で競争相手になるのは誰か
HIFIが本格的に日本へ展開する場合、競争はCrypto企業だけとは限りません。
銀行、決済事業者、電子決済手段等取引業者、Custodian、Security Token Platform、Banking-as-a-Service企業などが競合またはPartnerになります。
特に日本の大手銀行は円建てStablecoinやTokenized Depositへの取り組みを進めています。ここで海外Stablecoin Infrastructure Providerが価値を出せるのは、JPY Stablecoinそのものを作ることより、日本と海外のOnchain Liquidityを接続する部分です。
例えばUSD Stablecoin、JPY Stablecoin、Tokenized Treasury、Bank Depositを横断するTreasury Managementは、国内閉鎖型のシステムだけでは完結しません。複数Chain、複数Issuer、複数Bank Railを抽象化するOrchestration Layerが必要になります。
Antlerは今回の発表で、HIFIが日本を含む地域へLicensing Footprintを拡大しているとしています。この動きが具体的なCommercial Serviceにどこまで結びつくかは、今後確認すべきポイントです。
日本企業が見るべき3つのポイント
第一は、StablecoinそのものではなくOrchestrationです。USDC、USDT、JPY系Stablecoinのどれが勝つかを当てるより、複数Assetと複数Railを切り替えられるInfrastructureを持つ方が事業上の柔軟性は高まります。
第二は、ComplianceをAPI化できるかです。Stablecoin PaymentではWallet Screening、KYC/KYB、Travel Rule、Transaction Monitoringが必要になります。これらをManual Operationとして積み上げれば、BlockchainのSettlement Speedが速くてもBusiness Process全体は速くなりません。
第三は、PaymentとAsset Managementを分けすぎないことです。企業のCash、Stablecoin、Tokenized Treasury、Collateralが同じProgrammable Environmentへ移れば、Treasury Management自体がOnchain Productになります。
HIFIの調達は、Stablecoin市場が「Tokenを発行する競争」から「Tokenized Moneyを使ってどの金融商品を組み立てられるか」という競争へ移りつつあることを象徴しています。
3,700万ドルというSeries Aの規模以上に重要なのは、HIFIがPayments、Cards、Compliance、Bank Rails、Tokenization、Capital Marketsを同じInfrastructureとして設計していることです。日本市場でもStablecoin普及の次に問われるのは発行量ではなく、実際の企業金融や資本市場のWorkflowへどこまで組み込めるかになっていきます。







