クリプト訪ねて三千里:第1352話
タックスヘイブンとは? [ 最終回 / Google編 ]

これまでタックスヘイブンと呼ばれる国々の税制を紹介してきたが、今回は実際にそれらを活用した節税スキームを紹介していこうと思う。皆さんもご存じ、世界最大のIT企業であるGoogleは、タックスヘイブンと各国の税制を利用することで、なんと2011年だけで20億ドル(約2600億円)の節税に成功している。累計ではなく、たった1年でこれだけの節税をなせるのだから、税制とは非常に怖いものである。

 

このGoogle のスキームは、”Double Irish and Dutch Sandwich”と呼ばれ、グループ会社内で収益を高税率の国から低税率又は無税の国に移することで、脱税ではなく、全く合法的に節税を行うものである。2つのアイルランド法人と1つのオランダ法人を使用することから、この名前がついてる。

複雑そうに見えるが、このスキームが行っていることはシンプルで、海外でGoogleが獲得した収益を全て画面中心のアイルランド統括会社に集約させ、その統括会社を非課税とすることで節税を行っている。では、各ステップの詳細を見ていこう。

 

1.米国のGoogle本社がアイルランドの統括会社にGoogleの主な収益源となる検索・広告システムに関するライセンスを付与する。

 

2.アイルランドにある統括会社は、英国領バミューダが管理会社となる。
アイルランドの税制上、海外で管理される会社は「非居住者」として扱われ、「国外所得」に対して法人税がかからない。つまり、このアイルランド統括会社はバミューダで管理されている、非居住者の法人のため、アイルランド国外で得た収益は法人税が0となる。

この税制が、本スキームの肝となる。

 

3.アイルランド統括会社は、同国内の販売会社(アイルランド販売会社)に、米国のGoogle本社から付与されたライセンスを、再付与する。

 

4.アイルランド販売会社は海外事業の拠点として、全世界でGoogleのビジネスを行う。
つまり、アメリカ以外の国の収益は、このアイルランド販売会社が得る。しかし、この会社は統括会社からライセンスを借りているので、得た利益とほぼ同額のライセンス料を払うことで税引前収益をほぼ無くす。


なお、アイルランド販売会社は海外で管理されていないので、通常通り法人税が発生する。つまり、アイルランド販売会社→アイルランド統括会社(国外所得は非課税)に、ライセンス料として収益を全て移すことで、税金を払わなくて済む。

 

5.アイルランド販売会社は、オランダ法人(ペーパーカンパニー)を経由して、アイルランド統括会社にライセンス料を支払う。 

 

6.アイルランド統括会社は、オランダ法人からライセンス料を受け取る。
ここで受け取っているライセンス料は、もともとはアイルランド販売会社が世界中のビジネスで稼いだ収益である。しかし、オランダ法人を経由することで、アイルランド統括会社は「国外所得」として、この収益を受け取る。

 

7.アイルランド統括会社は非課税のため、全ての収益が非課税のまま同社内に蓄積されていく。
最初にも説明した通り、アイルランド統括会社は英国領バミューダで管理されているため、税制上は「アイルランド非居住者」に該当する。そして、①「アイルランド非居住者」が稼いだ②「国外所得」はアイルランドでは法人税がかからない。よって、①アイルランド統括会社が稼いだ、②オランダからの巨額ライセンス料(もともとはアイルランド販売会社が世界中で稼いだ収益)は、非課税となる。なお、バミューダには法人税がないので、バミューダに管理報酬としてアイルランド統括会社から利益を移しても、税金はかからないままだ。

 

以上のように、Googleは各国の税制や租税条約を巧みに利用し、同スキームを構築した。欠点を上げるとすれば、利益が全てアイルランド統括会社に蓄積するため、何かキャッシュが必要な際は、貯金箱からお金を取り出すように、アイルランド統括会社からお金を移さないといけない点だろう。

ここまで大がかりな節税スキームは難しいだろうが、多くの富裕層や企業がこのように利益をライセンス料等といった支払い名目で他の法人に移すことで、節税を可能にしていると今回のリサーチで学ぶことができた。税制というのは、知れば知るほどそれをどう活用できるかというアイデアがあれば武器にもなるのだと感じた。今後も、このようなトピックには注意深く、ニュース等を見ていきたい。

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