Ethereumには巨額のStablecoinが存在する一方、主要DeFiで運用される比率は限定的だ。SolanaやArbitrum、Avalancheとの比較から、発行残高と実際に金融利用される流動性の違いを読み解く。
発行残高の大きさと資本効率は別の指標
Stablecoin市場を見るとき、最も目立つ数字は各チェーン上の供給量だ。しかし、チェーン上に存在するドル建てトークンが、そのままDeFiの流動性として使われているわけではない。
Stable Flowsが9月10日に集計したデータでは、USDC、USDT、USDT0、PYUSDを対象とするEthereumのStablecoin Supplyは約1,224.5億ドル。一方、主要DeFiプロトコル内で確認されるStable TVLは約70.5億ドルで、Utilization Rateは5.8%だった。
ここでいうUtilization Rateは「Stable TVL ÷ Stable Supply」。Stablecoinのうち、どれだけが対象DeFiプロトコルに配置されているかを見る指標である。なお、これは全種類のStablecoinや全オンチェーン用途を網羅した数字ではないため、Ethereum全体の金融利用率そのものと解釈すべきではない。
Ethereumの5.8%を他チェーンと比べる
同じ方法で見ると、SolanaはStable Supply約103.8億ドルに対してStable TVL約10.7億ドルで10.3%。Arbitrumは約33.7億ドルに対して約3.38億ドルで10.0%だった。
さらにAvalancheは約7.77億ドルに対して約3.05億ドルとなり、39.3%と高い。ただし、小規模なSupplyを持つチェーンでは特定プロトコルへの資金集中によって比率が大きくなりやすい。したがって、Utilization Rateだけでエコシステムの優劣を判断することはできない。
Ethereumの特徴はむしろ逆だ。絶対額では約70億ドルと圧倒的に大きなStable TVLを抱えながら、母数となるStablecoin Supplyがさらに巨大なため、比率では低く見える。
ドル流動性はDeFi以外にも役割を持つ
では残りのStablecoinはどこにあるのか。StablecoinにはレンディングやDEXだけでなく、中央集権型取引所の決済・証拠金、ウォレットでの待機資金、OTC、クロスボーダー送金、企業決済など複数の用途がある。
Andersen Instituteが9月8日に公表した分析では、Stablecoin供給の約760億ドル、約30%が取引所に存在すると推計している。また、アドレスの帰属を特定できない部分も大きいとしている。つまり「DeFiに入っていない=使われていない」とは限らない。
この違いはチェーンごとの役割にも表れる。同分析ではEthereum上のUSDTの約70%が取引所に保有される一方、Tronでは5%未満としている。同じUSDTでも、利用されるネットワークによって資金の置き場所が大きく異なるわけだ。
SupplyではなくFlowまで見る
オンチェーン金融を分析するなら、Stablecoin Supplyだけでなく、Stable TVL、Transfer Volume、Exchange Balance、Lending Supply、Borrow Demandを組み合わせる必要がある。
例えばAaveではEthereumが依然として中心で、現在のSupply全体の約81.5%を占める。Ethereum上のAave Supplyは約258.9億ドルに達している。これはStablecoinだけの数字ではないが、Ethereumが金融市場として大きな資本を抱えていることを示す。
したがって重要なのは「Stablecoinが増えたか」ではなく、その資金がウォレット、取引所、レンディング、DEXなどの間をどう移動しているかである。Supplyはストック、Transfer VolumeやProtocol Flowはフローとして分けて読む必要がある。
日本でStablecoinビジネスを考える場合にも同じ視点が使える。発行額だけをKPIにすると、実際の金融利用を見誤る可能性がある。決済、取引、レンディング、RWAなど、どの用途へ流動性が接続されているかまで測る設計が重要になる。
まとめ
Ethereumには巨大なStablecoin Supplyが存在するが、対象となる主要DeFi内で運用される比率は5.8%にとどまる。一方で、絶対額のStable TVLでは他チェーンを大きく上回る。
この数字が示すのは資本効率の低さという単純な結論ではない。StablecoinはDeFi資産であると同時に、取引所の決済資産、待機資金、送金手段でもあるからだ。
Stablecoin市場を理解するには、発行残高というストックから一段踏み込み、「どこに置かれ、どこへ移動し、どこで収益を生んでいるか」を追う必要がある。オンチェーンのドル市場を見る次の指標は、SupplyそのものよりUtilizationとFlowになりつつある。







