クリプト訪ねて三千里 第1574話:Coinbase「Everything Exchange」が狙う、取引所からオンチェーン金融プラットフォームへの転換

Coinbaseは暗号資産売買だけでなく、株式、トークン化資産、DEX、ステーブルコイン、決済まで一つの入口へ統合し始めた。Everything Exchange構想から、取引手数料に依存しない収益構造とオンチェーン金融の競争軸を読み解く。

暗号資産の売買だけでは成長を説明できなくなった

暗号資産取引所の伝統的なビジネスモデルは、顧客の売買量に応じてTransaction Feeを得るものだった。しかし取引量は市場環境に左右されやすく、手数料競争も続く。Coinbaseが進めるEverything Exchange構想は、この構造から事業を広げる試みとして見ると分かりやすい。

同社は株式、暗号資産、デリバティブ、Prediction Markets、DEX、Stablecoin、Paymentsを一つの金融インターフェースへ集約する方向を明確にしている。直近でもCFOのAlesia HaasがCitiのカンファレンスで、Everything Exchange、Stablecoin、Payments、Onchain Infrastructureを成長戦略の柱として説明した。

重要なのは「取扱商品を増やす」だけではない。顧客が資金を入れ、取引し、保有し、担保として使い、決済するまでの金融行動を同じエコシステム内に留めることにある。

CEXとDEXの境界をユーザーから見えなくする

この戦略を象徴するのがDEXとの統合だ。Coinbaseは従来の上場審査を経た資産に加え、BaseやSolana上で発行された多数のオンチェーントークンへアプリからアクセスできる仕組みを拡大してきた。

Base上のDEX取引では1inchや0xが提供するLiquidity Poolを利用する。つまりCoinbase自身がすべてのOrder Bookを管理しなくても、外部のオンチェーン流動性を自社UIからDistributionできる。

これは取引所の役割を変える。CEXとDEXを別々の場所としてユーザーに選ばせるのではなく、裏側のExecution Venueとして使い分ける構造だ。競争軸は「何銘柄を上場しているか」から「どれだけ多くのLiquidity Sourceへ一つのアカウントから到達できるか」へ移る。

株式をオンチェーンへ持ち込む意味

もう一つの柱がTokenized Stocksである。Coinbaseは株式を1対1でUnderlying Shareに裏付けられたTokenとしてBase上へ発行し、対象ユーザーがSelf-Custodial Walletで保有できる仕組みを展開している。

ここで通常のオンライン証券との違いが生まれる。Tokenized Assetがウォレットへ移動可能になれば、単に24時間取引できるだけでなく、DeFiでCollateralとして利用したり、Lendingへ接続したりする可能性が出てくる。

オンチェーンで見るべき指標も変わる。取引高だけではなく、Tokenized Assetの発行残高、Base上の保有Wallet数、DEX Liquidity、Lending ProtocolへのCollateral Flowなどが、実際の利用を測る指標になる。

Stablecoinは商品ではなく共通決済レイヤーになる

Everything Exchangeを横につなぐのがUSDCを中心としたStablecoinだ。株式や暗号資産を同じアプリで扱っても、資金移動が従来型Banking Railに依存すれば金融サービスは分断されたままになる。

CoinbaseはPayment APIやEmbedded Walletに加え、企業が独自ブランドのStablecoinを展開できるCustom Stablecoinsも提供している。ここではStablecoinが一つの投資対象ではなく、Trading、Settlement、PaymentsをつなぐCash Layerとして機能する。

事業構造でも意味は大きい。取引手数料だけでなく、Stablecoin関連収益、Custody、Subscription、Payments、Institutional Infrastructureなど複数の収益源を持てるためだ。2026年第2四半期にはSubscription and Services Revenueが5.55億ドルとなり、Net Revenueの48%を占めた。

日本の事業者にとっての競争相手は取引所だけではない

日本では暗号資産交換業、証券、決済などが制度上それぞれ異なる枠組みで運営されるため、Coinbaseと同じモデルをそのまま導入できるわけではない。しかし事業戦略として重要なのは、金融サービスの入口が統合されていく方向性である。

将来的にStablecoin、Tokenized Securities、DEX、Custody、Walletが接続されれば、競争相手は同じ業態の暗号資産交換業者だけではなくなる。証券会社、Wallet Provider、Payment Company、Stablecoin Issuer、DeFi Protocolが同じ顧客接点を競うことになる。

そのとき価値を持つのは単一の商品ではなく、顧客、Liquidity、Custody、Settlement、Onchain Infrastructureを結び付けるDistribution Layerである。

まとめ

Coinbaseの戦略を単なる「暗号資産取引所の多角化」と捉えると、本質を見落とす。株式、Tokenized Assets、DEX、Stablecoin、Paymentsを同じ顧客基盤へ接続することで、金融商品の販売場所そのものを再設計しようとしているからだ。

注目すべき指標もCrypto Trading Volumeだけではない。Subscription and Services Revenue、Stablecoin Balance、Tokenized Asset Supply、Base上のLiquidity、Payment Volumeなどを組み合わせる必要がある。

オンチェーン金融の次の競争は、優れたProtocolを単独で作ることだけではなく、それらを一般ユーザーが意識せず利用できるDistributionを誰が握るかという段階へ進んでいる。