クリプト訪ねて三千里 第1576話:Circle「Arc」Mainnet始動、USDCをGasにする金融特化L1の設計

Circleが金融市場向けL1「Arc」のPublic Mainnetを開始した。USDC建てGas、1秒未満の確定性、許可制Validator、EVM互換を組み合わせる設計から、金融機関が運営主体となるPublic Blockchainの可能性を読む。

金融機関が求めるBlockchainの条件を最初から組み込む

汎用Blockchainへ金融機能を載せるのではなく、金融市場の要件から逆算してLayer 1を設計する動きが鮮明になっている。Circleは9月16日、ArcのPublic Mainnetを開始した。

ArcはPayments、FX、Tokenized Assets、Capital Marketsなどを主用途とするEVM互換ネットワークだ。Circleによれば、Mainnet開始時点で100を超えるInstitutional and Ecosystem Buildersが参加している。

特徴的なのは、既存のPublic Blockchainで課題になりやすい手数料の変動、Settlement Finality、Validatorの匿名性などを金融機関向けに再設計している点だ。

USDCをGasにする意味

ArcではUSDCがNative Gasとして使われる。利用者はETHなど別のNative Tokenを用意する必要がなく、Transaction Feeをドル建てで把握できる。

これは単なるUX改善ではない。企業のTreasuryやPayment事業者にとって、Gas用Tokenの価格変動を管理する必要がなくなり、Transaction Costを法定通貨ベースで予測しやすくなる。

さらにArcはMalachite Consensusを採用し、Deterministic Sub-second Finalityを掲げる。Finalityとは、Blockchain上の取引が覆らない状態として確定することだ。証券決済、FX、担保移動では「いつ確定したか」が資金効率やCounterparty Riskに直結するため、この性能は金融用途で重要になる。

EVM互換であることも実務上の意味が大きい。Solidityや既存Ethereum系Toolingを利用でき、金融機関が専用BlockchainのためだけにDeveloper Stackを作り直す必要を減らせる。

Validatorは分散性より「誰が運営するか」を重視

ArcはPublic Networkだが、Mainnet開始時のValidator参加はPermissionedである。

CircleとともにFounding Validator Cohortへ参加するのはBlackRock、DTCC、Galaxy、Global Payments、ICE、Mastercard、MoneyGram、SBI Group、Standard Chartered、Sumitomo Corporation、Visaだ。

ここにはAsset Manager、証券決済インフラ、銀行、Card Network、Exchange Operatorが並ぶ。匿名Validatorを多数集めるのではなく、実際に金融市場を運営する組織自身がNetwork Securityへ関与する設計である。

これはBlockchainのDecentralizationを最大化するモデルとは異なる。一方、金融機関から見ればValidatorのIdentity、Governance Perimeter、Operational Responsibilityを把握できるため、Public Chainを利用する際の管理可能性を高める。

Tokenized AssetsとStablecoinを同じSettlement Layerへ

Arcの戦略を理解するうえで重要なのがUSDC以外の資産だ。BlackRockはTokenized FundのBUIDLをArcへ展開する予定で、DTCCもTokenization関連サービスとの接続を進めている。

つまりCircleが構築しようとしているのは「USDC専用Chain」ではない。StablecoinをCash Legとして、Tokenized Securities、Funds、Credit、FXなどを同じSettlement Environmentへ配置する構造である。

オンチェーンで今後見るべき指標は、USDC Supplyだけではない。Arc上のStablecoin残高、Tokenized Asset Supply、DEXやLendingのTVL、Transaction Volume、Active Addresses、Cross-chain Flowを組み合わせる必要がある。Mainnet開始直後のため、現段階では将来の利用規模をこれらの指標から判断するには早い。

日本企業がValidator側に入った意味

日本からはSBI GroupとSumitomo CorporationがFounding Validator Cohortに含まれる。また、JCBやDigital GarageもPayment領域のBuilderとして名前が挙げられている。

これは日本企業にとって海外Blockchainを単に利用する段階から、Network OperationやSettlement Infrastructureそのものへ関与する選択肢が広がっていることを示す。

日本でもStablecoin、Tokenized Securities、Security Token、オンチェーン決済を別々のサービスとして見るだけでなく、Cash LegとAsset LegをどのSettlement Layerで接続するかが重要になる。Arcの実験は、Public BlockchainとPermissioned Financial Infrastructureの境界を考える具体例になる。

まとめ

Arcの特徴は処理速度だけではない。USDC建てGas、1秒未満の確定性、EVM互換、Permissioned Validatorという要素を組み合わせ、金融機関がPublic Blockchainを利用する際の摩擦を減らそうとしている。

同時に、BlackRockやDTCC、Visa、Mastercardなどが利用企業ではなくNetwork Operationにも関与する点は、Blockchain Infrastructureの新しい形を示している。

今後の評価軸は参加企業の名前ではなく、実際にどれだけのStablecoin、Tokenized Assets、Payments、Collateral FlowがArc上で動くかだ。金融特化L1が既存Chainとの差別化を証明できるかは、Mainnet開始後のオンチェーン活動から見えてくる。