RWA市場が拡大する一方、資産の多くは発行後に活発に取引されていません。TheoremはKYCや取引時間、保有制限を市場設計に組み込み、発行者自身が二次市場を構築できるインフラを提供します。その仕組みと日本への示唆を整理します。
トークン化の次に残された問題
債券、ファンド、株式などをブロックチェーン上で表現するRWA(Real World Assets)は拡大しています。しかし、資産をトークンとして発行できることと、その資産が継続的に売買されることは別の問題です。
2026年9月1日に正式ローンチしたTheoremが狙うのは、この「発行後」の市場です。同社は新しい公開DEXをつくるのではなく、RWA発行者、トークナイゼーション事業者、ブロックチェーン運営者が独自の二次市場を構築するための取引インフラを提供します。
背景には、RWAが増えても流通市場の厚みが追いついていないという構造があります。Theoremが公表時に示したデータでは、RWAプロトコルへの資金流入の93〜100%がPrimary Subscription、つまり発行者から直接取得する一次取得で、DEX経由は多くの場合0〜6%にとどまるとされています。
なぜ通常のDEXでは足りないのか
暗号資産のDEXでは、誰でもウォレットを接続して24時間取引できるPermissionlessな設計が一般的です。しかし証券やファンドなどをトークン化すると、同じ仕組みをそのまま適用できないケースがあります。
投資家のKYC、居住地域、適格投資家要件、保有上限、取引可能時間など、原資産に紐づく条件が存在するからです。さらに伝統的市場が閉まっている時間帯には、参照価格とオンチェーン価格の乖離や流動性低下も考慮する必要があります。
Theoremでは、こうした条件をKYC、Eligibility Check、Ownership Restriction、Market Hours、Reference Pricingなどのルールとして市場ごとに設定できます。コンプライアンスをDEXの外側で処理するのではなく、取引市場の設計要素として扱う発想です。
Algebraの取引エンジンをRWA向けに再構成する
Theoremの基盤にはDeFiインフラ企業AlgebraのAlgebra Integralが使われています。Algebraは複数のEVM互換ネットワークでDEX向け取引技術を提供してきた企業で、Theoremはその既存エンジンにRWA向けのルールレイヤーを追加しています。
ここで重要なのは、Theorem自身がすべての流動性を集める市場になることを目指していない点です。発行者やプラットフォームがブランドを維持したまま、自社管理のTrading Venueを展開できるホワイトラベル型に近い構造です。
これはインフラ事業としても意味があります。RWA市場が成長すれば、競争領域は「誰が資産をトークン化するか」だけでなく、「発行された資産をどこで、どのルールで流通させるか」へ広がります。
オンチェーンではTVLより取引量を見る
RWAを分析するとき、TVLだけを見ると市場の実態を誤解する可能性があります。資産がスマートコントラクト上に存在していても、ほとんど移動しなければ流通市場としての流動性は高くありません。
Theorem型のインフラを評価する場合には、発行残高だけでなく、Secondary Trading Volume、取引回数、ユニークな取引ウォレット、Liquidity Depthなどを見る必要があります。特に売買金額に対して価格がどの程度動くかというMarket Depthは、RWAの実用的な流動性を判断する重要な指標になります。
現時点のTheoremはローンチ直後であり、実際の導入市場や二次流通量について長期的な実績を評価できる段階ではありません。技術基盤が存在することと、買い手と売り手が継続的に集まることは分けて考える必要があります。
日本のRWA市場にも共通する課題
日本でもセキュリティトークンやデジタル証券の取り組みが進んでいますが、発行を増やすだけでは市場は完成しません。投資家が保有資産を売却したいときに、適切な価格と十分な流動性で取引できる二次市場が必要です。
一方、日本でTheoremのような仕組みをそのまま利用できるとは限りません。トークン化された資産の法的性質や取引方法によって、金融商品取引法をはじめとする国内制度との整合が必要になります。
それでも、KYCや投資家資格、取引時間などをプログラム可能な市場ルールとして組み込む考え方は、日本の金融機関やFinTech企業がオンチェーン市場を設計する際にも重要です。GlobalからJapanへRWAを持ち込む際、技術的な接続性だけでなく「誰が取引できる市場なのか」をコードと制度の両方で設計する必要があります。
まとめ
Theoremが取り組むのは、RWAを新しく発行する技術ではなく、発行された資産をどう流通させるかという次の課題です。
RWA市場の成熟度を測る指標も、発行額やTVLだけでは不十分になります。二次取引量、流動性の深さ、参加者数、そして規制要件を満たした市場が実際に機能するかが重要です。Theoremの成否を見るうえでも、今後どの発行者が採用し、どれだけ実取引が生まれるのかを追う必要があります。







