Posted on August 22, 2017 by antonylewis2015
*この記事はbitsonblocks.netより許可を頂き日本語に翻訳してご案内しております。

今回は、ブロックチェーンが「ファイナンシャル・インクルージョン」(以下、金融包摂)にどのような影響を与え、どのように「銀行へのアクセスを持たない人・企業(以下Unbaked)にそれを与える」ことができるのか、その可能性について簡単に二部構成でご説明します。
金融包摂:Unbakedとは誰のことなのか
低所得者層
確かに正式な金融システムから取り残されている低所得者層は少なくありません。そうでない人のようにデジタル金融活動に参加することも難しいでしょう。手頃な融資を受けることができなかったり、銀行口座を開設できないことさえあるかもしれません。
しかし同時に、彼らだけがUnbakedではないのです。
中小企業
中小企業も「金融排除」されることが多々あります。国によって状況は異なりますが、なにも発展途上国に限ったことではありません。豊かな国でも、業界や所有構造などに基づいて、正式な銀行業務インフラから除外されることがあるのです。
はたしてどのように中小企業が「金融排除」されてしまうのでしょう。最悪のケースでは、法的に問題がないだろうにもかかわらず、基本的な銀行口座さえ開設できないこともあるのです。たとえばビットコイン取引所がこれに当たります。産業自体は合法でも、道徳的には判断の分かれるマリファナやギャンブル、アダルト関連企業についても同様です。
ブルームバーグのコラムニストのマット・レビーン氏が、ビットコイン取引所に融資する銀行への融資を拒否する銀行ついて書いた論評があります。私が気に入っている一節を以下に紹介しましょう。
銀行と航空会社のアナロジーについてときどき考えることがある。ドラッグ・ディーラーが銀行を使ってお金を動かす場合、その銀行には責任が課せられる。が、航空会社は同じように責任を問われたりしない。
これは、あるタクシー運転手がユナイテッド航空でニューヨークからマイアミへ飛んで、マイアミでボートを所有している男を拾ってマリーナまで送り届けたら、その男がボートでドラッグ・ディーラーのために現金を移送するような話だ。そして責任を問われるのはユナイテッド航空ということになる。
犯罪を犯した人間に関与する人間に関与する人間と取引をした銀行を処罰すれば、正当な金融取引の大部分が中断されてしまう。
伝統産業でさえ融資を受けるのに苦労する可能性もあります。もっとも多くの融資を必要とする新しい企業ならなおさらです。または従来型ではないビジネス(たとえばよく知られているモデルやメトリクスのない新産業など)は融資を受けるのが難しい場合が多々あります。
基本的な銀行口座はあらゆるビジネスにとって重要であり、融資は中小企業の生命線といえます。運転資本(製品を作るために原材料を購入する)と拡張(さらなる設備の購入や新しいオフィス・工場・事業ラインの開設)に欠かすことができません。
しかし、「金融排除」されるのは単に人や企業だけではありません。
銀行
驚くべきことに、銀行もまた「金融排除」されています。とりわけ貧しい国々の銀行が。
パプアニューギニアの地域銀行を想像してみてください。顧客は作物を輸出したいプランテーションの所有者であり、代金を米ドルで受け取りたいと思っています。米ドルを電子送金で送ったり受け取ったりするには、地域銀行が米ドルのネットワークに属していることが求められるでしょう。(支払いが純粋に紙幣で行われる場合の、金庫や施錠されたボックスを用いた銀行業は非常にシンプルです。しかし、デジタルの支払いは異なるかたちで機能します。)
注記:なぜビジネスがキナ(パプアニューギニアの通貨)ではできないのか疑問に思うかもしれません。それは外国企業がおそらくキナを保有しておらず、米ドルをキナにする為替手数料は非常に高いからです。輸出業者は米ドルがより有用であると感じていることでしょう。もしかしたら、海外から農業機械を購入する必要もあるかもしれません。そうなると、現地通貨とくらべて相対的に安定している米ドルは魅力的です。
それではデジタル決済はどのように機能するのか。一般的に地域銀行は米大手銀行のいずれかに、可能ならば米国内で米ドル建ての決済口座を開設し、その口座を通じてデジタル米ドルを保管します。これは「ノストロ・アカウント(代理銀行口座)」と呼ばれ、米国の銀行が「代理銀行」ということになります。
しかし小規模銀行は、こうした口座を閉鎖される問題にますます直面するようになっています。大手銀行がディリスキング(リスク回避)に動いているためです。
なぜ彼らはUnbakedなのか?
コストとリスク
銀行口座の開設サービスを展開している銀行は、低所得者層、中小企業、または別の銀行であろうとも、顧客にアクセスを与えるべきか否かを判断するために以下の2点を検討します。
- コスト:利益がコストをカバーしてくれるか
- リスク:顧客のリスクはどの程度か。どのような経営上の損失、あるいは評判へのダメージが想定されるか。
Unbankedな低所得者層
これはおもに銀行の利益やリスクではなく、コストに関係するお話です。コストはまず「オンボーディング(加入)」プロセスについてまわります。つまり、顧客は誰なのか、どこに住んでいるか、どのように稼いでいるのか、ブラックリストに載っていたりしないかを確認する手続きのことです。顧客のオンボーディングとアカウントの維持にかかるコストは、その顧客からの利益よりも少ない必要がありあます。顧客がそれほど多くのビジネスを口座内で展開しなかったら、その口座は銀行にとって採算がとれないものということになってしまいます。
Unbankedな企業
企業は個人よりも複雑なため、そのデューデリジェンスには時間とコストがかかります。 企業には潜在的に多くの関連法人があります。オーナーや重役のバックグラウンドチェックもあります。 数多くの書類もからみ、手動で確認作業をしなくてはなりません。この手続きはKnow Your Customer(KYC・顧客確認)と呼ばれ、銀行はこれに辟易しているのです。
銀行は顧客の企業が何であるか、何をしているのか、誰が所有しているのか、どのように収益を上げているのかを理解しなければなりません。 会社が発展するにつれ、銀行はその評判または経営にダメージを被るリスクの可能性に備えて、顧客の業績に注視する必要がありますこれらすべてが通貨建ての銀行口座のためだけに求められます。
これに加えて、企業に融資を行うために、リスクを理解した上で資本と利息を手に入れる可能性の程度を把握する必要もあります。これは顧客企業のビジネスモデルとリスクの理解を意味します。融資の利息は、銀行の労力とリスクに見合ったものでなければなりません。結果として多くの優良企業が、利息が高すぎて融資を受けることができなくなるのです。
Unbankedな銀行
別の銀行の口座を閉鎖する理由は、これらの口座開設による利益が、KYCやアンチマネーロンダリング(AML)の規定を遵守するコストの増加をカバーできないためです。加えて、小規模銀行に口座を提供している大手銀行には、評判と経営上のリスクがのしかかってきます。小規模銀行が顧客のためにマネーローンダリングしていると判明でもしたら、または政治的な不祥事に巻き込まれたりしたら、大手銀行も罰金を科されるかもしれません。
エコノミスト誌は、こうした代理銀行によるディリスキングの動きを痛烈に批判した素晴らしい記事を出しています。「打撃をもっとも受けているのは慈善団体と貧しい移民たちだ」というのです。
では分散型台帳テクノロジー(DLT)がどのように役立つのか?
(参照:What’s the difference between blockchain and DLT)
コストの削減
現在、個々の銀行や金融業界のなかに、個人や中小企業を視野に入れたオンボーディングとKYC手続きのデジタル化および合理化めぐる、数多くのイニシアチブが存在します。DLTを使用する自己証明型身分証名は、KYCのデータキャプチャ部分をより安価かつ容易にします。もちろん、コストをめぐるもうひとつの要素は、内部システムを合理化する銀行自身です。KYCは結局のところ、内部手続きだからです。銀行は今現在経験しているような、業務コストの削減をめぐるプレッシャーをこれまで感じてきたとはいえないので、今後どのように社内業務をより効率的にしていけるのかみていくしかありません。内部ブロックチェーンが活躍する可能性だってあります。特に銀行の内部組織が(実際その大半がそうであるように)断片的で、互いの部署が頼りあったり信頼したくない、あるいは調整役にデータの信頼性を証明できるようにしたくない場合などは……。
収益の増加
DLTは中小企業からの利益増を銀行にもたらすことができるでしょうか。サプライチェーンと財政収支の透明性の証明において、DLTを活用する中小企業に関し、周興味深いアイディアがいくつかあります。銀行は、中小企業をめぐるリスクや返済能力をよりよく把握できるようになるため、より安価な事業資金調達(短期融資)を提供することが可能になるでしょう。
これはどういう仕組みなのか。銀行の顧客は融資を望んでいて、銀行は顧客の事業が健全であり、融資はかならず返済されるという安心がほしいとしましょう。顧客がXXという部品のサプライチェーンに属していて、そのXXやロジスティクス、請求書、関連する支払いの記録が分散型元帳に記録されているとした場合、そのデータの一部を選んで銀行と共有することで、事業の状態を証明できます。トランザクションまたは出所のハッシュ(指紋)チェーンとともに電子署名を用いて認証されたデータは、「先日付小切手」や簡単に改ざんできるエクセルのファイルよりもはるかに説得力があります。
リスクの削減
中小企業をよりよく理解することによって、銀行はリスクをより正確に測ることができるようになります。そうすればより魅力的な金利で融資をしたり、以前ならしていたかっただろう融資もするようになるかもしれません。
もちろん、DLTだけではなく、デジタル化、API、ストレートスルー処理もそうですが、DLTで使用される電子署名やハッシュ化データのチェーンは、既存の枠組みが現在使用していない保証を提供できます。
新しいビジネスモデルについて
これについては予測がもっとも難しいです。 伝統的な第三者機関の役割の一部がテクノロジーに置き換えられたときに、各業界はどのような進化を遂げるのか?新しいビジネスモデルとは?産業はどのように進化するのか? 新しいビジネスモデルは何か? ビットコインと仮想通貨は、銀行がこれらのコイン(よりむしろ秘密鍵)を保管するようアプローチされるに至るまで成熟しています。 ICOトークンを安全に預けておきたいと思っている人さえいます。 デジタル金庫はどんどん普及するでしょう。トークン化されたゲームアイテムのようなデジタル資産は? ユニークなデジタル資産を誇らしげに所有している人は、盗難されにくくするために第三者機関の参入を希望するようになるでしょう。
ほとんどのDLTネットワークには、自動化されたB2Bワークフロー(いわゆるスマートコントラクト)で使用されるデータの提供主体「オラクル」があります。一部のDLTネットワークでは、「注文者」または「公証サービス」が、マネタイズされうる貴重なサービスを追加します。銀行もこうした役割を担うことができるでしょうか。おそらく……。とはいえ、こうした利益獲得機会がunbankedの金融包摂に直接つながるかどうかは不明です。
結論
本記事では、銀行にアクセスを持たないunbankedは低所得者層だけではなく、企業や銀行もこれに該当することを説明してきました。DLTがはたしてこの問題にどう貢献できるのか。これまでのテクノロジーがそうしてきたように、コストの削減と利益の増加によって、それは可能です。以前は採算がとれないとみなされていた顧客が採算の取れる顧客になれるのです。DLTに関連する機能を2点、次に挙げておきます。
- DLTは認証済みの文書や証拠に選択的にアクセスできるリポジトリとして機能する
- DLTは効率的かつ監査可能で、情報やデジタル資産の振替・管理に使用できる新しいB2Bプロトコルを生み出す