クリプト訪ねて三千里 第1578話:FRB利上げ後もBitcoinが8万ドルを回復、金利上昇で崩れなかった市場構造

FRBの3年ぶり利上げと米10年債利回り5%超という逆風の中、Bitcoinは8万ドル台を回復した。ETFフロー、現物の売り圧力、デリバティブの変化から、悪材料を吸収した今回の値動きの構造を整理する。

悪材料への反応が変わったことに注目する

Bitcoinは9月18日、約2週間ぶりに8万ドル台を回復した。注目すべきなのは上昇率そのものではなく、その直前に並んでいた材料だ。

FRBは9月16日、政策金利を25bp引き上げ3.75〜4.00%とした。2023年以来の利上げであり、米10年国債利回りも5%を上回る水準まで上昇した。通常であれば、無利息資産であるBitcoinには強い逆風になりやすい環境である。

さらに米国では暗号資産市場構造法案CLARITY Actの上院採決が不成立となった。それでもBTCの下落は限定的で、その後8万ドルを回復した。市場を見るうえでは、ニュースの良し悪しだけでなく「悪材料に価格がどこまで反応したか」が重要になる。

利上げは価格形成の前に織り込まれていた

今回のFRB利上げは発表直前には市場で高い確率で予想されていた。したがって政策変更そのものは、新しいショックというより、すでに債券市場へ反映されていたイベントと考えやすい。

実際、FOMC前には2年国債利回りが政策金利を大きく上回り、債券市場は追加引き締めを先に価格へ織り込んでいた。10年債利回りも5%近辺まで上昇している。

ここで重要なのがReal Rate、実質金利だ。名目政策金利からインフレ率を差し引いた金利が上昇すると、現金や国債を保有する機会費用が改善するため、CryptoなどRisk Assetには一般に不利になる。それでもBitcoinが大きく崩れなかったことは、売り圧力がある程度事前に消化されていた可能性を示す。

ETFと現物需要は「強い」よりも「底割れしなかった」

需要面では全面的な強気転換が起きたわけではない。9月前半には米Spot Bitcoin ETFから資金流出が続き、オンチェーンの新規資本流入やStablecoin供給の伸びも鈍化していた。

一方、18日の上昇局面を前にSpot Bitcoin ETFには約1.6億ドルの純流入が確認され、直前の流出基調から反転した。ここで見るべきなのは単日の金額ではなく、ETF経由の継続的な売りが止まるかどうかである。

Glassnodeのデータでは、直前のBTCはTrue Market Meanとされる約7万6,700ドル近辺まで低下していた。これは現在市場に参加している投資家の平均取得価格を測る指標の一つで、この水準付近で価格が急激に崩れなかったことは、既存保有者の売却が一方向へ加速しなかったことを示している。

デリバティブでは「イベント通過」が重要になる

FOMCや法案採決の前にはOptions市場でDownside Protectionへの需要が増えていた。Optionsは将来の価格変動に備える保険として利用されるため、Put需要の増加は市場参加者が下落リスクに備えていたことを示す。

しかし大きなイベントが実際に通過し、想定以上の下落が起きなければ、保険として積み上げたポジションを解消する動きが生まれる。Short Positionの買い戻しやDealer Hedgingの変化が重なると、現物需要が急増していなくても価格が戻りやすくなる。

今回の8万ドル回復を理解するには、新しい強気材料が突然生まれたというより、利上げ、規制不透明感、高金利という既知のリスクを市場が消化し、Downside Hedgeの必要性が低下したという視点が有効だ。

日本から見るべきは米金利とドル流動性

日本の暗号資産市場でも、BitcoinをCrypto固有の材料だけで分析することは難しくなっている。米国ETFが大きな需要経路となった現在、米国債利回り、実質金利、ドル流動性、ETFフローがオンチェーン需給と同じ程度に重要になっている。

特に金利上昇局面では「金利が高いから下落する」と単純化するより、どこまで織り込まれているか、ETFから資金が流出しているか、現物保有者が売却しているかを分けて確認する必要がある。

まとめ

今回の値動きが示したのは、強い材料よりも悪材料への耐性だった。FRBの利上げ、5%を超える米長期金利、規制面の不透明感が重なってもBitcoinは下落を拡大せず、その後8万ドル台を回復した。

ただし、これは金融環境が好転したことを意味しない。新規資金流入は依然として限定的で、金利も高い。今後の市場構造を読むうえでは価格だけでなく、Spot ETF Flow、Real Rate、オンチェーン資本流入、OptionsのSkewやHedging需要を並べて確認することが重要になる。

相場の転換点では「何が起きたか」だけでなく、「その材料に市場がどう反応したか」がより重要なデータになる。