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2018年、ウォール街は数兆ドル規模をブロックチェーンに費やす

初期の信奉者が金融業界を抹殺するテクノロジーになると期待していたブロックチェーンを、まさにその金融業界が熱心に模索中

Original Article : Wall Street Firms to Move Trillions to Blockchains in 2018
September 29, 2017 | Written by: AMY NORDRUM

ブロックチェーンが10年ほど前に、世界トップクラスの仮想通貨、ビットコインの技術的なバックボーンとして初めて登場したとき、金融仲介業者を排斥する方法を一般の人びとに提供するかのようにみえたものだ。しかし今や、大手銀行ほか金融業界こそが、これを自ら有利な方向に活用する方法を模索しはじめている。

この手のブロックチェーンは、ビットコインのホワイトペーパー(サトシ・ナカモト、2009年)に示されているものとは正反対のビジョンを共有。ナカモト氏自身がそうであるように、ビットコインの投資を開始するにあたっては、本名さえいらない。管理責任者は存在せず、誰でもトランザクションの履歴を確認することができる。一方で金融業界のブロックチェーンは非公開、彼らの専門用語で言うなら許可制だ。参加に際しては身元を明かし、システム管理者から認可される必要がある。

企業側は、許可制ネットワークこそ規制当局を満足させ、顧客のプライバシーを保護するための最善策だと主張する。が、ブロックチェーン純正主義者は、情報を緊密に保持しようとすると、企業と顧客の両方に新たな問題を引き起こす恐れがあり、ブロックチェーンの特性が失われてしまうと反論している。

この2年間に、BNYメロン、ゴールドマンサックス、ING、サンタンデール、UBSなどの最大手が、数十のブロックチェーン・プロジェクトを模索しており、一部はコンセプト実証段階の先に駒を進めている。現実社会に最初に公開されるプロジェクトのひとつは、難解な証券クラス向けの年間11兆米ドル規模の市場を仲介する、あまり一般に知られていない企業のものだ。もし、そのプロジェクトが認められれば、その取引に対して人々がお金を払ってリスクを回避したり、お金を稼ぐことが可能になるかもしれない。

すべてうまくいくとすれば、銀行や証券会社が行っている管理業務の多くに加えて、1000兆米ドル規模の証券市場のかなりの部分が、まもなく企業ブロックチェーンにより始動する可能性があるということだ。

ナカモト白書は、手数料をとる仲介業者や振替のやり損じがない、あるいは経済破綻のきっかけとならない「ピアツーピア」(P2P)の金融ネットワークについて概説している。トランザクションはデジタルキーで署名され、共有型台帳に記録されるのだ。すべてのアカウントに関するマスターソースが数多くのコンピュータに格納される。この設定により、トランザクションの履歴を改ざんすることは不可能になる。

しかし、最初の仮想通貨取引とデジタル・ウォレットはぜい弱性にあふれ、基盤となるパブリック・ブロックチェーンのスケールアップが困難だった。その後2016年には有名な「The DAO事件」が起きる。6000万米ドルがThe DAOというプロジェクトから盗まれてしまった。DAOは自律分散型組織を意味し、イーサリアム上のスマートコントラクトにそって運営されている。イーサリアムとは、ビットコインのライバルである仮想通貨ETHのためのパブリック・ブロックチェーンだ。結局この自律分散型投資ファンドは回収されたものの、ブロックチェーンは依然として人間の手によって書かれているため、コードの誤りは避けられないということを手痛く再確認する事件となった。

金融会社がデジタルキーを通じて身元を証明できる顧客にだけ、独自のブロックチェーン・ネットワークを限定しているのはこのためだ。こうした許可制台帳は、企業の具体的な目標を達成するために慎重にデザインされており、何か問題が生じた場合には修正が比較的容易でもある。

Hyperledgerプロジェクトのエグゼクティブ・ディレクターBrian Behlendorf氏は、「許可制のものの方が世界の仕組みにより近いように私には思える」と語る。 「無許可制はどちらかというと、一部の人にとってのあるべき世界の姿ではないだろうか。」

許可制の台帳では、すべての金融取引を透明かつ分散化されたシステム上で執行できるブロックチェーン技術の可能性を生かしていないと考える人もいる。初期のビットコイン信奉者は、許可制ネットワークへと勢いが流れ、開かれたパブリック・ブロックチェーンから逆に離れていっていることに失望している。

非営利団体「Coin Center」の調査ディレクターのPeter Van Valkenburgh氏は、「許可制ブロックチェーンは、ビットコインが2009年に可能だと証明していたものから、80年代〜90年代に開発されたPaxosのような分散型データベース技術へちょっとした逆戻りとなってしまっているケースも一部にある」と語る。「銀行などの保守的な業界が実施するシステムのように、IT産業の実に無難なところで手を打とうとしているのだ。」

Robert Palatnick氏は、3年前にわずかなビットコインを購入した高校生の息子からブロックチェーンについて聞いた。 「お金を失った息子に、私はこれで教訓になったなと言ったものです」と話す。

(DTCC)社の副ディレクター兼テクノロジー・アーキテクト責任者として、Palatnick氏はブロックチェーンを同社の日常業務に直接組み込むためのプロジェクトを複数率いている。

DTCCは、企業が取引を記録する帳簿を保管する金融ユーティリティ機関だ。証券取引の増加によってもたらされた書類の洪水を管理するために、1970年代、業界の大物たちによって設立された。地方債だろうがアップル株だろうが、米国の証券を取引する世界中のブローカーや機関投資家のほぼすべてが、DTCCを通じて決済している。

DTCCは、許可制ブロックチェーン上で実行するようにデータベースを再構築することで、コストの削減を期待している。しかしこのアップグレードは、今にちの金融システムがどのように機能しているのかを変えてしまうようなものではない。すでにお分かりのように、それは依然として、中央集中型のプレーヤーが壁に囲まれたネットワークの背後から取引をコントロールする独占的なシステムなのだ。

2018年後半に、DTCC初のブロックチェーン・ネットワークが始動すれば、業界でこれまでもっとも野心的な試みとなり、11兆米ドル相当のクレジット・デフォルト・スワップを処理することになる。クレジット・デフォルト・スワップは、J.P.モルガンの銀行家らによって1994年に開発され、その10年後、不動産担保証券に結びついた種類のひとつが米国の金融危機に火をつけた。

約10年前、DTCCはメインフレーム上にデータウェアハウスを構築。ここでは現在、クレジット・デリバティブの一種である世界中のクレジット・デフォルト・スワップの98%を処理している。 ウェアハウスは誰が誰に借りがあるかを把握するための重労働を一挙に引き受けている。今にちではおよそ1,200社が、1日に6万件のトランザクションという規模のスワップ取引で、これに頼っている。

このシステムは十分に機能するが、スワップ取引のプロセスは依然として非効率的であり、Palatnick氏はブロックチェーンがこの部分を解決できると考えている。現在、すべての企業がわずかに異なる方法でスワップをフォーマットしている。 2社がスワップへの参加を希望する場合は、双方ともマッチングサービスと呼ばれるソフトウェア・プログラムに注文を出さなければならない。このプログラムは条件が一貫しているようにするもの。その後、最終合意がDTCCのデータウェアハウスに転送され、移管中にスワップは数回トランスレートおよび再フォーマットされる。

前出のPalatnick氏は、ブロックチェーンにスワップを直接記録している買い手と売り手は、「スマートコントラクト」と呼ばれる合意に直接書き込まれたロジックを用いて、取引を自動的に管理できると主張する。すべての企業が、同じソフトウェアを使用して取引契約を記録し、費用のかかる取引や支払い調停を排除できる。 すべてのコンピュータまたはノードが、スワップの完全な履歴のコピーを格納するため、企業は最新の情報をもとに取引していると確信することができるのだ。

最新の市場データがないと、企業は何百万ドルもの損失を被る可能性があるため、こうした 「ゴールデン記録」へアクセスできることは重要だ。このために銀行や証券会社は、ブルームバーグやトムソン・ロイターのデータサービスに多額の購読料を支払っているわけだ。

DTCCは、AxCoreと呼ばれる統一コードベースでスワップネットワークを開発するために、IBMおよびブロックチェーンのスタートアップAxoniと1年以上にわたり協力している。スワップが作成されると、Axoniのソフトウェアはそれをスマートコントラクトに書き込み、クラウドの複数のノードに格納されたAxoni独自のブロックチェーンにエントリを記録する。

これまでのところDTCCには3つのノードがインストールされており、オリジナルのビジネスケースに基づき、メインフレームを通じたスワップの実行と比較すると、完成したシステムでは20〜30%のコスト削減が見込まれるとPalatnickは期待している。最終的にスワップの大半を取引する企業は、Axoniのソフトウェアをインストールすることで自らのノードを設定し、業界全体でもより多くの節約を達成することさえ可能だ。

昨年、AxoniはDTCCのデータウェアハウスに現在リストされているクレジット・デフォルト・スワップの総量をシミュレートするのに十分なスマートコントラクトを作成。 その後85回のテストを繰り返し、通常の取引ペースでシステムを作動させ、ノードのプラグを引いて残りのネットワークがどのように反応するかまで確認した。

その後DTCCは、Axoniのソフトウェアが各テストで望ましい結果を100%の成功率で達成したと述べている。当該プロジェクトがひとたび始動すると、Axoniコード(Palatnick氏言うところの「秘密のソース」)はすべて、第三者機関に預託されるか、エスクローに置かれるか、オープンソースのHyperledgerプロジェクトに提出される。その結果たとえAxoniが廃業しても、スワップ取引は継続できるというわけだ。

来年導入された際、新しいスワップネットワークは、まず既存のデータウェアハウスと並行してバックグラウンドで展開する予定だ。しかしPalatnick氏の目標は、2018年末までにそのウェアハウスにとって代わらせるというもの。そうなった瞬間から、11兆米ドル規模の国際的なクレジット・デフォルト・スワップ市場の取引がブロックチェーン上でされることになる。

そしてその前にも、多くの金融商品がブロックチェーンに移行する可能性がある。

提案者たちはリアルタイム監査を可能にしたり、規制当局が違法取引を停止したり、投資家がブローカーや取引所なしで取引できるようにするなど、ブロックチェーン技術が金融業界を改善できる方法を数多く夢見てきた。

しかし、ブロックチェーンが従来のデータベースや基本的なメッセージング・サービスを超越し、多くの価値を提供しているわけではないと主張する専門家も一部にいる。ブロックチェーンをあまりにも広く適用したり、それにあまりにも多くを期待すると、失望するだけだと言うのである。

IBMのブロックチェーン技術担当バイスプレジデントのJerry Cuomo氏は、「私は結局どうにもなっていない概念実証を数多く見てきた」と話す。同氏は、IBMがここ数年間に400社のブロックチェーン・プロジェクトに取り組んできたと推定する。が、これまでのところ、実現に至ったのはわずか数十プロジェクトにすぎない。

ブロックチェーンに対する企業の熱狂は2016年に急上昇し、多数のプレスリリースを生み出したが、それら初期プロジェクトのほとんどがどのように進められたかについては、ほとんど知られていない。当時Citibankのベンチャー投資部門担当ディレクターだったIan Lee氏は、5月に開催された年次ブロックチェーン・コンファレンス「Consensus」で聴衆に対し、「正直なところ、これらPoCの健全性については、ほとんど表立ったデータがありません」と語っている。

それでも、Consensusのムードは晴れやかなものだったといっていい。主要ないくつかの仮想通貨価格がその四半期中、上昇を続けていた。金ピカ衣装のバックダンサーに囲まれた主催者は、この成長を祝う歌でコンファレンスを開会したほどだ。

一方で金融各社は、独自のブロックチェーンへの賭けで、いくつか非常に厳しい制約にぶつかっている。ディベロッパーはいまだ、シンプルなアプリケーションの開発方法や法廷で通用するスマートコントラクトの作成、雇用者を規制当局のさらし者にしない方法を探り出そうとしている。これを打開するために、いくつかのコンソーシアムや企業はスタンダードを設けたり、オープンソースのソフトウェアツールを作成したり、あらゆるブロックチェーンに接続できるプラットフォームを開発しようとしている。

AxoniやChainなどのスタートアップは、一般的にスマートコントラクトを通じて実行される(分散型アプリ用のDAppsと呼ばれる)特別なアプリで、顧客が色づけできる、業界フレンドリーなコードベースを作成している。独自のAPIとソフトウェア開発キットで、 顧客はこれらDAppを各目的に適応させ、レガシーシステムと統合することができるのだ。

IBMとマイクロソフトは、許可制ブロックチェーン上で作動する特定のプロジェクトを展開するための一連のサービスで参入。マイクロソフトは、デジタルキーボルトやID管理などの機能を提供するミドルウェアを開発し、かつマイクロソフトがエンタープライズグレードとみなすあらゆるブロックチェーン(たとえばイーサリアム)と協力している。

IBMでは、ほとんどのプロジェクトは、プログラミング言語Goで作成されたスマートコントラクトを実装した分散型台帳「Hyperledger Fabric」に基づいている。 Fabricはまた、同じチャネルの参加者にのみトランザクションをブロードキャストするために、企業が台帳を複数のセクションに細分することを可能にする。セクションはIBM のCuomoがSlackチャネルになぞらえている。

また、イーサリアムの許可制オフショットあるいはフォークを開発するために、多くの努力が払われている。これらフォークはオープンソースであり、パブリックチェーンには欠けている企業フレンドリーな機能が組み込まれている。たとえばFabricが提供しているものに類似したところで、関係者だけにトランザクションをブロードキャストする機能などがある。フォークの設定方法に応じて、参加者はETHを使用し、特定のフォーク(デジタルMonopolyマネーの一種)でのみ受けつけられる、ETHに基づいたトランザクションや特別なトークンの支払いができる。

ブロックチェーンに関心を寄せる企業のコンソーシアム「Enterprise Ethereum Alliance」は、J.P. モルガンのオープンソース Quorumのフレームワークを基礎にしている。 R3の名で知られる別グループは、主に分散型台帳として機能するという点でFabricとよく似た、Cordaというブロックチェーンに触発されたプロジェクトを持っている。

しかし一般的には、ブロックチェーンの開発はまだ技術とツールの支離滅裂なミックスといっていい。金融各社はこれまで数百万ドル規模の投資をしてきたが、ブロックチェーン・ベースのネットワークではまだ広く受け入れられているリファレンスアーキテクチャやスタンダードは存在しない。「すべてのベンダーがある意味、それぞれ独自バージョンを開発している」とPalatnick氏は言う。
このような異種のアプローチは、セキュリティなどの機能比較を困難にする可能性がある。金融におけるブロックチェーン技術に関する最新の報告書をコーディネートした世界経済フォーラムのJesse McWaters氏は、ディベロッパーがすべてのブロックチェーン・ネットワーク上でセキュリティ監査を実施する方法を見つけなければならないと述べている。そうすれば、一般が広くそれを使用することに確信が持てるからだ。

これら発展過程につきものの苦労がある中、ジュネーブに拠点を置く金融サービス会社Unigestionの経営責任者Laurence Leblond氏は、ものごとを慎重に進めてきた。「私たちにとってブロックチェーンの課題は、プラットフォームのセキュリティに尽きます。」

金融会社が集中していることで有名なイギリス海峡の島ガーンジーで、最近Unigestion社が、分散型台帳を運用するために民間投資ファンドを採用した。ファンドは小規模でUnigestionはわずか2つの投資会社のひとつだが、プライベートエクイティはブロックチェーン技術にとって、大きなチャンスがある領域だと同社は考えている。

Unigestionに代わってファンドを管理しているNorthern Trustのシニア・バイスプレジデントArijit Das氏は、「我々の目的は、当ファンドのライフサイクル全体をブロックチェーン上で管理することです」と話した。

今のところ、Unigestionの新システムは既存ファンドを反映したシャドーモードであり、Leblond氏はセキュリティの報告結果を待っているところだ。ブロックチェーンをベースにしたプロジェクトをより多く定着させるには、金融業界がスタンダードに合意し、使いやすいプログラミング・モジュールを開発し、規制上の不確かさを明らかにする必要があると、専門家は口をそろえる。

これらの問題を目の当たりにしてイライラすることもあるだろう。 今年初めにゴールドマンサックスの常務取締役を退き、スタートアップChainの社長に就任したTom Jessop氏は、ブロックチェーンは一時的に「幻滅トラフ」に入ってしまったと考えている。それは悪名高きGartnerの「誇大宣伝サイクル」の段階であり、投資家の関心のピークがこれに続く。その後運がよければ、「生産性プラトー」がやってくるというわけだ。

ブロックチェーン・ベースのシステムを展開することに自信が持てるよう、多くの企業はその成熟を待っている。 HyperledgerのBehlendorf氏は、「我々が扱っているのはホンモノの資産とお金なので、誰もが焦り気味なっている」と指摘する。

そして、金融業界がもし本当に独自のブロックチェーンを採用したいのならば、全プロセスを通してきわめて忍耐強くなくてはならない。前出のR3の市場調査担当ディレクターTim Swanson氏は、「一歩一歩慎重に進まなくては。金融システムは破綻させられないのだから」と言う。

ブロックチェーン技術が、人間がこれまでやってきた以上に金融システムの多くの側面をよりうまく処理できる能力を証明する可能性は大いにある。壁でおおわれた企業ネットワークから広く開かれた分散型システムへ転換していくか否かは、最終的に我々がその可能性を信じるか否かにかかっている。

本記事は、2017年10月号に「Wall Street Occupies the Blockchain」のタイトルで掲載された。